"退職金と三百万円の借金" 第13話
もし自分の預から急に百万円ものを会社関連の座にかせば、税務監査や本社のコンプライアンスに引っかかる……何より、自分の管理で起きた事故がるみにれば、部職を解任され、昇のは永に閉ざされる状況だったんです!」
喫茶の空気が、凍りついた。
「の朝、男さんの告別式の直でした」
佐野の声が、幽霊のようにかすれ、震えた。
「川部が、誰もいない物流管理課のオフィスで、僕を呼びしたんです。部は……林さんのデスクのにっていました」
「私の、デスク……?」
「はい。部のには、総務課のキーボックスから持ちされた、マスターキーがありました。部は迷わず、林さんの側の引きしをけました。そこから、林さんの私印を取りしたんです」
私の背筋を、たい刃物が撫でろされたような戦慄がった。
「僕が『部、何をするんですか』って止めたら、川部は鬼のような形相で僕を睨みつけました。……そして、こう言ったんです」
佐野は喉を詰まらせ、そのの川の言葉を、憑りつかれたように復唱した。
『佐野、黙っていろ。これが、男の遺志を継ぎ、おを守り、そして林を救う唯の方法なんだ。この方法しかないんだよ』と。
「救う……? 私を救うですって?」
私の唇から、りを通り越した、笑が漏れた。
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夫の骨を拾っていた私から印鑑を盗み、百万円の借を背負わせることが、私を救うことだったというのか。
「佐野君。川常務は、その、なんと言って私の名を使ったの?」
私が問い詰めると、佐野は耐えきれないようにを垂れ、絶望に満ちた声で吐きした。
「常務は……『林さんがこの事実をったら、男のは無駄になる。林に入るはずの数千万円のが、全部消えてなくなるんだ』って……そう言ったんです」
約束の曜の朝、京の空はつないれだった。
放射却でえ切った空気が、首筋をチクリと刺す。私はいつもの通勤に乗り、いつもの駅でり、通い慣れた品の本社ビルを見げた。
ガラス張りの代な階建てのオフィスビル。その階、事部のあるフロアの窓を見つめながら、私はコートのポケットに入れた帳をく握りしめた。
夫の男が遺した、あの擦り切れた黒い帳。
そして、佐野から受け取ったの納伝票と、凍庫の事故報告のコピー。
今、すべてを終わらせる。
午分。
案内されたのは、先週末の無質な第面談ではなく、その隣にある役員用の会議だった。
なオーク材の扉をけると、そこにはすでにの男が揃っていた。
座には、端正な濃紺のスーツにを包んだ川常務。
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その隣には、分いファイルをいたまま落ち着かない様子で鏡の位置を直している事部の浦。そして座の隅のパイプ子には、会社の作業着ではなく、着慣れない物のリクルートスーツにを縮こまらせた佐野が、両膝に拳を置いたまま座っていた。
「おはよう、静枝さん。待っていたよ」
川常務が、いつもの穏やかで堂々とした声で私を迎えた。その表には、曜の廊で見せた揺も、応接で声を荒らげた焦燥も微も残っていなかった。
「寒かっただろう。まあ、掛けなさい」
私は勧められた央の革張り子には座らず、ったままく礼した。
「失礼いたします」
浦部が、どこかホッとしたような、取り繕うような笑顔を浮かべてをいた。
「林さん、朝くから労をおかけしてすまなかったね。……結論から申しげます。先週お話ししたの福祉貸付百万円の件ですが、会社として極めて円満な解決策を講じることができました」
浦部は元の類を枚、私ののテーブルに置いた。
そこには『退職全額支決定通』と記されていた。
「川常務のご尽力により、当の貸付は役員特別裁量基から全額が補填され、社内処理として相殺が完いたしました。したがって、林さんの退職千百万円は、円の減額もなく、本付で全額がご指定の座へ振り込まれるはずとなっております」