"退職金と三百万円の借金" 第8話
……静枝さん、の解決法を選んでくれないか。過を掘り返しても、誰も幸せにはならないんだ」
の解決法。
その言葉の響きに、吐き気がするほどの欺瞞をじた。
もし川常務が、単なる善でポケットマネーをそうとしているなら、なぜ昨の廊で目を逸らしたのか。なぜ、佐野のところへ調査にった私を、こうして即座に呼びしてを塞ごうとするのか。
百万円というは、役員にとっても決して端ではない。
それを即座に私費で埋めわせようとする理由は、ただつしかない。
公の調査をされると、絶対に困るからだ。
「……お断りいたします」
私は切を指先で押し返した。
「静枝さん!」
「私は施しを受けに来たのではありません。自分の無実と、夫の名誉を取り戻しに来たのです。誰がやったのかもわからない正な借を、常務のおで帳消しにして満額の退職を受け取るなど、私にはできません。そんな汚れたおでこれからのをきていくくらいなら、円もいりません!」
「頑なになるな! これは君を守るためなんだ!」
川常務が初めて声を荒らげた。その顔に、焦燥と苦渋が滲みしていた。
君を守るため。
、夫がんだあのも、このは同じ言葉を言った。
『静枝さん、君と男君の名誉は私が必ず守るから』と。
広告
守る、という言葉の裏で、このたちは体何を覆い隠したのか。
「失礼いたします」
私はくをげ、引き止める常務の声を背に、役員応接をびした。
エレベーターには乗らず、非常階段を気に駆けりた。膝が痛み、息が切れたが、は止まらなかった。
向かう所は、つしかなかった。
再び戻った物流センターの搬入は、昼の荷作業で騒然としていた。
荷物を積んだパレットが次々とトラックに吸い込まれていく、私は作業着の背に『佐野』と刺繍されたを見つけ、迷わずその腕を掴んだ。
「うわっ……林さん!? なんでここに……常務のところへかれたんじゃ……」
「佐野君、来なさい」
私は佐野の腕を引いて、騒音の激しい型凍庫の脇、予備バッテリーの充スペースへと引っ張り込んだ。
マイナス度の気が隙となって元を吹き抜け、吐く息がく濁る。
「林さん、痛いです、してください……!」
「川常務に切を渡されたわ。百万円。これで帳消しにして、退職を受け取って黙ってれと言われた」
私の言葉に、佐野の目がきく見かれた。
「じ、常務が……自腹で……?」
「ええ。常務はそこまでして、の記録を隠したがっているのよ。佐野君、あなたがさっき言った『男さんが借を作ったんじゃないか』という言葉、あれは嘘ね。
広告
あなたは最初から、この百万円が何のなのかっていた」
「違います、僕は……」
「嘘をつかないで!」
私は佐野の作業着の胸ぐらを、両でく掴みげた。
柄な私のどこにそんな力があったのか、佐野の体がたじろぎ、背のスチール棚にぶつかってガタリと音をてた。
「あなたを男さんがどれだけがっていたか、忘れたの!? 仕事でミスをして落ち込んでいたあなたを、毎晩のようにに連れて帰って、私の作った恰好な唐揚げを緒にべて、『佐野は筋がいい、いつか俺以の物流マンになる』って、男さんは嬉しそうに自していたのよ! その男さんがんだに、私の名を騙って処理されたを、あなたが見て見ぬ振りをするというの!?」
私の目から、悔しさとけなさで涙が溢れしていた。
佐野の顔が、激しく歪んだ。
その目から、ぽろぽろと粒の涙が零れ落ち、作業着の襟元に吸い込まれていく。
「……すみません」
佐野は両で顔を覆い、しゃがみ込んだ。
「すみません……林さん……本当に、すみません……!」
「佐野君……」
「僕、ずっと……この、だって忘れたことはなかったんです……でも、常務から絶対にするなって……言ったらおも、林さんも、全員が破滅するって言われて……」
佐野は震えるで、作業着のい内ポケットにを突っ込んだ。
そして、折り畳まれた数枚のA4用を取りした。さっき文保管庫で、私が来るに密かにプリントアウトしていたものだった。