"8か月前に姉を亡くした俺――スーパーで鬼課長が双子の名前を呼んだ" 第3話
裕子のカレー
曜の午2きっかりに、川課は紺の布袋を抱えてやって来た。いつもの黒いスーツではなく、淡いグレーのニットに紺のパンツをわせている。装が違うだけで別のように見えたが、玄関できちんとをげる姿には課らしさが残っていた。
「急に押しかけてごめんなさい。居はしないから」
双子は朝から何度も計を見ていた。真奈がスリッパを並べ、杏奈がリビングのテーブルへ案内する。俺は茶を入れたが、緊張して湯をく注ぎすぎ、いになった。
川課が布袋から取りしたのは、赤い表の学ノートだった。角が丸くなり、透なカバーには細かな油染みが残っている。
「裕子と私が、学の頃からきしていた料理ノート。結婚してからも、気に入ったレシピを持ってきてくれたの」
最初の数ページには菓子や弁当のおかずが並び、途から乳、幼児向けの料理へ変わっていく。字は紛れもなく姉のものだった。急いでいただけ、数字の7がへ傾く。
杏奈がページをめくり、カレーの欄でを止めた。
「ママのカレー、べたい」
材料はちょうど買ってある。俺がそう伝えると、川課はすぐ台所へたず、「緒に作ってもいい?」と双子に確認した。が頷いてから、俺たちは4でエプロンをつけた。
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玉ねぎを切るのは俺、じゃがいもの皮をむくのは川課。真奈と杏奈には、ましたゆで卵の殻をむいてもらう。川課は包丁を握る元を見ながら、切り方を度教えただけで、俺から仕事を取りげなかった。
「裕子は最に、りんごを半分すりおろしていた。牛乳もしだけ」
「だから、俺が作るより甘かったのか」
「あなたのカレー、辛いの?」
真奈が即座に「ちょっとだけ」と答え、俺たちは初めて同に笑った。
煮込み始めると、りんごと辛料の匂いが部に広がった。双子は何度も鍋を見に来たが、卓につくまでは普段どおりにはしゃいでいた。
変化が起きたのは、杏奈がべただった。スプーンを元で止め、何も言わずに俯いた。隣の真奈も、妹の皿を見たまま唇を噛んでいる。
「違った?」と俺が尋ねると、杏奈は首を横に振った。
「同じ。ママのと同じがする」
涙がカレーの皿へ落ちた。真奈は「泣かないって決めてたのに」と言いながら、妹の肩を抱く。俺は慰める言葉を探したが、川課は急いで泣き止ませようとしなかった。
「会いたくなるよね。私も会いたい」
その言で、真奈も声をげて泣いた。俺はの子のへ移り、背をさすった。泣かせないことが守ることだとっていたが、は俺を困らせないために泣くのをしていたのだ。
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俺自も、姉のカレーをべた最のをいした。営業の帰りにち寄った俺へ、裕子は「ばかりじゃ駄目」と盛りにしてくれた。あのは、またいつでもべられるとい、のさえろくに伝えなかった。
喉の奥が詰まったが、無理に平静を装うのをやめた。俺が目元を押さえると、真奈が子からを伸ばして袖をつかんだ。4で泣いた、めかけたカレーをしずつべ直した。
、川課はノートを双子へ渡した。毎来て事をすると言うのではなく、が望むならに数回、緒に料理をしようと提案した。俺も教わりたいと答えると、初めて自然な笑顔を見せた。
帰り際、赤いノートの最に挟まれた付箋が落ちた。姉の字で、い文章が残されている。
〈哲也は昔から、守ると決めると何も言わずに無理をする。誰かが止めないと駄目〉
8かにいなくなった姉から、今の俺を見透かされた気がした。