"3年間隠していた清掃員の母に、院長が頭を下げた" 第12話
同じ玄関から
それから数かたった朝、俺は駅へ続く坂を、母と並んで歩いていた。最初は待ちわせのを何度も確認していたが、今では勤務がうに自然と連絡を取りうようになっていた。
母の鞄には、研修で使う資料が入っていた。角が折れないようにい板を挟んであり、側のポケットから、使い慣れた鏡のケースがのぞいている。
「今は、写真をし減らしたの」
母が言った。俺が理由を尋ねると、見せたいものを全部入れると、話を聞くが疲れてしまうのだと答えた。
「そのかわり、話を途で止めて、皆さんならどう考えるか聞いてみようとって」
母は歩きながら、話の順番を声で確かめていた。病院の建物が見えても、その声を止めなかった。
職員用の入を通ると、清掃スタッフの女性が、カートにしい布を積んでいた。母が先に挨拶をし、俺もを止めた。
「おはようございます。昨、通の濡れたところを教えてくださって、ありがとうございました」
女性はし驚いたあと、「転ばれなくてよかったです」と笑った。母とは今の担当所をく確かめい、カートを押して仕事へ向かった。
俺はそのろ姿を見送ってから、母と廊をんだ。3から何度も通ってきた所なのに、顔をわせて挨拶できるが増えるだけで、朝のさが違ってじられた。
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研修へ向かう角で、同じ科の若い医師と会った。母を見ると、彼は今の講師かと俺に尋ねた。
「うん。母の原田澄です」
そう紹介し、母が自分で挨拶するのを待った。若い医師は今の話を楽しみにしていると伝え、先に部へ入っていった。
母は俺を見たが、何も言わなかった。ただ、鞄の持ちを直した指の力が、し緩んだように見えた。
研修では、瑞希が資料を配る準備をしていた。母が持参した写真を渡すと、最初の画面に、あの仮設診療所が映しされた。
「今は、この写真から始めますか」
瑞希が確認すると、母は頷いた。
「はい。どんなたちと働いていたか、先にってもらいたいので」
若い母と、若い院が並んでいた写真。以は封筒のにしまわれ、俺がさえらなかったものが、今は母自の選んだ所にていた。
俺はろの席へ座り、始までのを確かめた。午の担当が始まるに、最初の話だけは聞ける。そのつもりで仕事の準備を済ませてきた。
方では母がマイクの位置を直し、鏡をかけた。話し始めた声は、で俺を呼ぶ声と同じだった。
「今は、当の現で、私が迷ったことをお話しします」
俺は鞄から記具をした。母の話を聞いていると、俺が幼い頃の病で見ていた横顔と、目のの横顔が、ようやくのとしてなった。
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予定のになり、俺は静かに席をった。話の区切りで母と目がうと、さく会釈して廊へた。見送るために母が話を止めることはなく、扉の向こうから、その穏やかな声が続いていた。
のポケットにを入れると、朝、母が渡してくれた買い物のメモがあった。必なもののに、俺が『夕飯は俺が作る』ときしただった。
母はそれを読んで、魚を焦がさないでね、と笑っていた。俺も笑って、帰りが遅くなるときは連絡すると答えた。
俺はメモを畳み直し、病棟へ向かった。途、清掃のカートが通るのを待ち、顔をげて挨拶をした。
今夜は、母が今どんな質問をされたのかを聞こう。返事を急がず、途で別のことを考えずに、最まで聞きたいとった。
朝、緒にくぐった入のガラスに、廊を歩くたちの姿が映っていた。
そこを母と並んで歩くことは、もう、特別な決のいることではなかった。