"3年間隠していた清掃員の母に、院長が頭を下げた" 第9話
消さなかった声
検討会の、俺は母と緒に会議へ入った。患者本にも説したうえで、救命に関わった報と、その扱いを確認するが設けられていた。
母は自分の席に置かれた名札を見て、さくを止めた。そこには『原田澄』とだけかれていた。俺が子を引くと、母は隣に座り、持参した封筒を机へ置いた。
黒瀬は向かい側にいた。院、血管科の医師、瑞希、医療全を担当する職員が揃うと、院が俺に経過の説を求めた。
俺は記録に沿って話した。母が腹部の血に言及し、俺が採血の変化と術歴を確認して専科へ連絡したこと。その、専科が診察と検査をい、緊急術につながったことを、順に示した。
「この経過について、事実と異なる点はありますか」
院が尋ねると、瑞希と担当の医師が、自分の見聞きした範囲で相違ないと答えた。黒瀬も、誤りがあるとは言わなかった。
次に、俺は最初の稿をいた。
「では、先が血管再建部の異常を疑い、相談を主導したという記載は、何を根拠にしたものですか」
黒瀬は元のをめくった。だが、そこにしい記録が挟まっているわけではなかった。
「取りまとめ役として、チームの判断を代表してきました」
「最初は『私が』とかれていました。指摘したあとも、実際の発言者は加えられていません」
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俺が初稿と修正版を並べると、医療全の職員が、修正を求めた履歴を確かめた。黒瀬はをめくるのをやめた。
「ご本が、医師として診療に参加したわけではないので……」
「だからこそ、役割を正確にけばよかったのではありませんか」
俺は母を見た。母は机にを置き、黙って聞いていた。息子をかばうために、ここで話を収めようとはしなかった。
「母は術をしたとは言っていません。気づいたことを伝えたんです。その報を聞いた医師が、患者さんを診て判断した。なぜ、それをそのまま残せなかったんですか」
しばらくして、黒瀬がい声で答えた。
「清掃の方の発言として、軽く見ていました」
母の指がわずかにいた。俺は膝ののを握り直し、もうつだけ尋ねた。
「それで、あとから自分が疑ったことにしたんですか」
黒瀬は顔をげなかった。
「自分の判断を、実際よりきくきました」
その言葉は、職員が作成している確認記録に残された。
続いて、以の術資料を検討した血管科医が説した。記録には脈の損傷と血、その修復が必だったことが記されており、の今回の病変だけから当の過失を推定する根拠はないという。
「疑問があれば専に検討すべきです。しかし、現点で原田先の術に問題があったと患者さんへ示唆することは、資料の裏付けを欠きます」
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黒瀬はく返事をした。母の名を説からすために持ちした疑いは、そこで退けられた。
院が、確認した内容をまとめた。
「原田澄先から、既往の血管再建に関するな報提供があったこと。その報を受けて、担当チームが評価をめたことを記します。稿の誤りについても、私から患者さん側へ説します」
母は初めてをいた。
「ありがとうございます。私の話を聞いて確かめてくださった方々のことも、残してください」
瑞希が母を見て頷いた。机のの初稿には、修正が必な箇所を示す印が並んでいた。あの夜、入で遮られた声は、今度は消されずに残ることになった。
黒瀬が子を引いた。
「申し訳ありませんでした。説は、私のほうでき直します」
院はちがりかけた彼を止めた。
「訂正は当然です。ただ、それだけで終わる話ではありません」
黒瀬のが、子の背で止まった。
「今回の取りまとめ役を、このまま君に任せることはできません。国際会議の発表者についても、改めて決めます」