"全員が揃えた同じ嘘" 第12話
隣県の沿いにある方都。 そこで、虐待を受けた子どもたちの自支援と絵本の読み聞かせ活を続けている民施設『ひだまり文庫』。 その団体の設周の記誌に、支援スタッフのとして、さな黒写真とともにその名が掲載されていた。
『橘 』
写真のにいたのは、代半ばの女性だった。 伏し目がちだった学の頃の面をしっかりと残しながら、その瞳にはどこか静かで、凛としたが宿っていた。 写真のキャプションには、『幼期に受けたの傷を乗り越え、現は子どもたちの居所づくりに携わる』と記されていた。
私は帳にその所をき留めると、資料を元の棚に戻した。 そので総務課へ向かい、翌の休暇届を提した。
「佐久君、珍しいね。君が平に休みを取るなんて」
課にそう声をかけられたが、私は「庭の用事です」とだけ答え、をげた。
庭の用事。あながち嘘ではない。 に置きりにしてきた、私の、そして組全員の、歪んでしまったの結び目を解きにくのだから。
翌朝、私は実からをらせた。 どんよりとした曇り空の、速をへとむ。 ほどると、窓の向こうに鈍のが見え始めた。 潮のりと、湿ったの匂いが、エアコンの送から微かに流れ込んでくる。
広告
目の所は、古い漁港を見ろす台の宅にあった。 昭の面を残す造平の建物のに、作りの製板が掲げられていた。 『子どもの本の ひだまり文庫』。
庭にはとりどりのパンジーが植えられ、縁側には子ども用のさな製ベンチが並んでいる。 をくのコインパーキングに止め、私は呼吸をひとつしてから、引き戸にをかけた。 カランコロンと、真鍮のドアベルが優しい音をてた。
「いらっしゃいませ。どうぞ、がってくださいね」
奥の部から、落ち着いた女性の声が聞こえた。 玄関で靴を脱ぎ、磨きげられた板張りの廊をむ。 畳敷きの広い部の壁面に、鮮やかな絵本や児童文学がぎっしりと並べられていた。 午ということもあり、子どもの姿はなかった。 窓際の丸テーブルで、背を向けて本の背表を拭いていた女性が、私の音に気づいて振り返った。
のエプロンに、紺のカーディガン。 髪をろでひとつに束ねたその女性と目がった瞬、の歳が気に吹きんだ。
篠原だった。
いや、今は橘だろう。 華奢な肩、し素のい瞳、そしてどこかの顔を窺うような、微かな緊張を孕んだち姿。 のあの、教の隅でを縮めていた女が、確かにそこにっていた。
広告
「あの……本の寄贈の方でしょうか? それとも、見学ですか?」
は穏やかな笑みを浮かべ、首を傾げた。 私の顔を見ても、同級だとは気づいていないようだった。無理もない。学の頃の私は背がく、鏡をかけた目たない子どもだった。
私は喉の奥の渇きを覚えながら、ゆっくりとをいた。
「ちゃん」
その呼び名を発した瞬、の笑顔が、まるで陶器にヒビが入るように張った。 に持っていたマイクロファイバーのタオルが、指先から滑り落ち、畳のに落ちる。
「……え?」
「佐久律です。緑ヶ丘学、組の」
の瞳が、恐怖で見かれた。 歩、また歩と、無識のうちにろへ退いていく。 背が本棚にぶつかり、棚のの製の積みがコトコトと微かな音をてた。
「律……君……?」
「久しぶりだね。急に押し掛けてごめん」
「どうして……どうしてここが……」
の声は、目に見えて震えていた。 指先を胸ので固く握りしめ、呼吸が浅くなっていく。 まるで、何にも鍵をかけてくに埋め直したはずの過の霊が、昼ののに突然姿を現したかのような怯え方だった。
「帰ってください」
は線をに落とし、拒絶の言葉を絞りした。
「お願いです、帰ってください。私……昔のことは、何も覚えていません。全部、忘れました。ここには、過のりいは誰も来ないはずだったのに……」
「ちゃん、責めに来たんじゃないんだ」
私は着のポケットから、あのジッパー付きの透なビニール袋を取りした。