"全員が揃えた同じ嘘" 第2話
「いつ学をてったの?」
その問いに対し、私たちは、まるで全員が同じひとつの脳を共しているかのように、言句たがわず、まったく同じ言葉を返したのだ。
「先は午に帰りました」
嘘だった。 になど、先は帰っていなかった。 だが、誰かが号令をかけたわけでも、放課に全員で密談したわけでもなかった。 それなのに、クラスの全員が、それぞれの自宅の玄関で、居で、夕の卓で、親の顔をまっすぐ見つめながら、同じトーンでその言葉をにした。
『先は午に帰りました』
所の母親たちので、その奇妙な致は瞬だけ話題になった。「あの子たち、みんな同じこと言ってるわね」「変な裏でもわせたのかしら」。 しかし、は子どもの嘘をく追及しない。しょせんは学のいつきの悪戯か、誰かの言い違いを真似したのだろうと片付けられ、その謎はのまりとともに忘れられていった。
ただ、その輪のにいなかった女を除いて。
篠原。 のに、母親の再婚に伴ってどこかくのから緑ヶ丘学に転してきた、柄で無な女の子だった。 いつも教の窓際の隅の席で、を縮めるようにして座っていた。初になっても決して半袖を着ようとせず、首まで隠れる袖のシャツを着ていた。
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そのだけが、あの、親にも所のにも、何も言わなかった。
そして倉先が消えてから半、にがる直の休み、は誰にも別れを告げずに再び転していった。 その転のの朝、終業式が終わった直の教で、は私の机の引きしに、あのさな片をさく丸めて押し込んだのだ。
『先はのとき、まだにいました』
私は、このを捨てることができなかった。 怖かったからだ。 あの「午に帰りました」という全員致の嘘の裏に、底れないがをけていることを、歳の子どもながらに本能で悟っていたからだ。
「律、お茶入ったよ。し休んだら?」
階から母の声が再び聞こえ、私はに返った。 急いで片を指先で丁寧に折り直し、ズボンのポケットへと滑り込ませた。
階段をりてリビングに向かうと、母が急須から湯呑みにお茶を注いでいた。 テーブルのには、剥いたばかりのリンゴが並んでいる。 壁のカレンダーには、来週の曜のところに赤ペンで『解体業者打ちわせ』とき込まれていた。
「学の旧舎、来週からが入るらしいね」
私は湯呑みを受け取り、できるだけ平淡な声を装って切りした。 母は「ああ、そうらしいわねえ」と、リンゴをつまみながら頷いた。
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「もう随分とボロボロだったからね。耐震基準も満たしてないって、広報誌に載ってたわよ。あなたの学が、あの造混じりの古い舎を使った最の世代じゃないかしら」
「ねえ、母さん」
私は湯呑みのを掌でじながら、線を湯気へと落とした。
「倉先のこと、覚えてる?」
母のが、ピタリと止まった。 剥きかけのリンゴの皮が、途でぷつりと切れてテーブルのに落ちる。 母は顔をげ、し眉をひそめて私を見た。
「倉先って……あののの? 急に辞めちゃった先?」
「うん」
「急にどうしたのよ、そんな昔のこと。もうもじゃない」
「いや、部を片付けてたら、当のプリントがてきてさ。ほら、先が精神な理由で辞めたっていう、あの緑の」
母はあからさまに嫌そうな顔をして、溜息をついた。
「いしたくもないわ。あのは本当に変だったのよ。学期の途で担任がいなくなるなんて、親としてはたまったもんじゃないでしょう。おまけに、あの先、辞めるからちょっとおかしかったのよ。保護者会でもの目を見ないでオドオドしてたり、急にになったり。学側も『適応障害のような状態だ』って説してたしね」
「……先、本当におかしかったのかな」
「おかしかったに決まってるじゃない。普通のが、あんな何の引き継ぎもしないで突然消えるわけないでしょう。
それに、あのの夕方のこと、今でも覚えてるわよ」