"3か月寝たきりの娘を、婿に黙って連れ出した日" 第4話
そのペンを置いてください
「今、さやかさんをかすことはできません。ここで治療を続けます」
医師は健のペンを見ずに答えた。差しされた類も、机の央から自分の側へ寄せるだけだった。
「あなたが何かに署名すれば、お連れしできるという状況ではありません」
健のペン先が止まった。だが、すぐに着の内側から名刺入れを取りし、医師のへ名刺を置いた。
「こちらの病院にも、うちと取引のある先がいるはずです。責任者を呼んでもらえますか」
「治療については私から説します。まず、普段の診察とお薬について確認させてください」
肩きを読んでも、医師の態度は変わらなかった。健は名刺を押していた指をし、子へく腰をかけ直した。
彼は自己免疫疾患だという説を繰り返した。本で般にわれる治療では対応できず、から取り寄せた薬を使っている。皮膚の傷も病気のせいで、が触れれば染するのだと。
「どなたが傷を直接診ていましたか」
「写真を送って、指示を受けています」
「では、最に対面で診察した医師と、医療関を教えてください」
健は、専医と毎連絡していたと答えた。医師は質問を変えずに待った。私は昨の自分も同じように答えていたことをいし、膝ののをいた。
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「ここにいてあるでしょう。英語が読めないんですか」
類の端を叩いた健に、医師が別のを示した。
「記載されたクリニックには、正規の連絡先を確認したうえで照会しています。この文を発した事実はない、という回答を受けました」
健はへを伸ばしかけて止めた。線が医師から私へ移り、また類へ戻った。
「紹介業者を通しています。事務のき違いでしょう。妻を救おうとして、こっちはを払っているんだ」
「使用した薬の名と、購入先を教えてください。治療のために必です」
今度は返事がすぐになかった。健はペンの蓋をはめ、し、机に置いた。私が医療用語を理解できず黙ったとき、彼はよく同じように返事を急かした。その彼が、薬の名を尋ねられて黙っていた。
「お母さんが、勝なことをするから」
ようやくてきた言葉は、私に向けられた。
「部を壊して、らないを入れて。僕がどれだけ気をつけて病してきたとってるんですか。さやかに何かあったら、どうするんです」
私は机ので両をにつけた。悪い方の膝も、今は引かなかった。
「扉をけてもらったのは私です。病院へ連れてきたのも、私が決めました」
「それが違いだったと言ってるんだ!」
入にいた警備員が歩づいた。健は声を落としたが、こちらを睨んだままだった。
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「さやかは昨、あそこには戻さないでと言いました」
初めて、健の目が面談の扉へいた。
「……話したんですか」
娘の呼吸や識については、自分から尋ねなかっただった。そのが、娘が話したと聞いたとたん、子から腰を浮かせた。
「私もその言葉を聞いています」
同席していた護師が静かに言った。健はをきかけ、私を見たあと、護師を見た。
「薬で混乱しているんですよ。本のことは僕が番分かってる。会って話せば、すぐに落ち着きます」
「今は面会できません」
医師が告げると、健は子を引いた。入へ向きかけたところで、にいた刑事がへ入ってきた。
「渡辺健さんですね」
分を示されても、健は最初、私を見ていた。次に示された逮捕状を見てから、ようやく刑事の方へ体を向けた。
監禁と傷害の疑いだと告げられた。聞き慣れた娘の名が読みげられる、私は机の縁を見ていた。娘を傷つけた来事が、族だけで片づける話ではなくなっていた。
「待ってください。妻の病をしていただけですよ。鍵は染対策です。お母さんだって、分かっていたでしょう」
健がこちらへを伸ばそうとし、刑事に制される。私は子をったが、彼にはづかなかった。
「私は、あなたの説を信じていました」
言い終えるに、健が頷いた。
その顔を見て、私は続けた。
「信じてしまったことも、娘に会わせてもらえなかったことも、全部お話ししました」
彼はもう頷かなかった。
刑事に促されて歩きすとき、健は病棟へ続く廊を見た。さっきまで退院の類を求していたが、娘のいる所に歩もづけず連れていかれた。
面談には、名刺が残った。会社名のに刷られた副社という文字を、私はしばらく見ていた。以は、その数文字に逆らって娘の命を危険にさらすのが怖かった。
護師が、しをみましょうと言ってくれた。受け取ったコップは、私がっていたよりも温かかった。両で包んでから、ようやく肩ががった。
さやかはまだ、危険な状態を脱したわけではない。私が先にしてしまってはいけないとい、治療についてしく分かったことがないか尋ねた。
そのあと、残っていた刑事から、もうし確認したいことがあると言われた。自宅の捜索で、診療資料と緒に保険関係の類が見つかっていた。
「娘さんが、2件の命保険に入っていたことはごじですか」
結婚、保障を見直したと聞いた覚えはあった。私は頷きかけたが、額も内容もらないと答え直した。
「類では、どちらも保険の受取が、ご主になっています」
コップを置く所を探した。
机は目のにあるのに、うまくを伸ばせなかった。
娘がきているうちは使えないおを、あのはどれだけ受け取るつもりだったのだろう。