"毎月20万円送っていたのに、82歳の母は皿を洗っていた" 第1話
流し台の向こう
皿の割れる音がして、佐藤健はスマートフォンから顔をげた。
州の港からし入った堂だった。厨の入で、髪の女性がに膝をつこうとしている。主がちり取りを持って駆け寄り、危ないから触らないで、と声をかけた。
「ごめんね。私が落としたんだから」
聞き覚えのある声に、健の箸が止まった。女性が流し台にをついてつ。薬指には、縁がさくへこんだ古い指輪があった。幼い頃、隣を歩きながら何度も触った指輪だった。
「……お母さん?」
女性はを止めた。こちらへ向けた目元に見覚えがあった。頬も髪も変わっていたが、違えようがなかった。
「健かい」
母のふみは、それだけ言って蛇を閉めた。健は子を引いたままち尽くした。
15ぶりだった。
ホテル経営と産事業で佐藤グループを築いた健は、52歳になった今も、な発予定には自らを運んでいた。今は元の察だった。次の協議までに事を済ませるつもりで、このに入った。目のの定からは、まだ噌の湯気がっていた。
「どうして、ここで働いているの」
ふみは濡れたエプロンでを拭かず、横に掛けてあったタオルを取った。その指の節は、健が覚えているよりずっと太くなっていた。
「洗い物を頼まれているからだよ」
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「そうじゃなくて。もう休んで。があるから」
健は財布をき、幣を何枚か作業台に置いた。
「今の分は僕が払う。おにも話すから、もう帰ろう」
ふみのが止まった。彼女は幣を拾わず、健を見た。
「それ、しまいなさい」
「りなければ、もっと」
「私が帰るかどうかを、おがおで決めるんじゃないよ」
厨の奥で注文を読みげる声がした。健は通をふさいでいたことに気づき、横へ寄った。主が破片を片付け終え、ふみに子を勧める。
「今は軽い物だけでいいですからね。い鍋は私がやります」
「ありがとう。あとしだから」
母は客の茶碗を1つずつすすぎ始めた。健の幣だけが、乾いた作業台に残っていた。彼はようやくそれを財布へ戻した。
「でも、そのでこんなに働かなくても」
「そのって、私は今いくつだい」
健は母の顔を見た。80歳を過ぎたことは分かる。だが、すぐに答えられなかった。母は返事を待ち、それから自分で言った。
「3で82歳になったよ」
腕計の針だけがはっきり見えた。今朝説を受けたの面積も取得価格も覚えているのに、母の齢がてこなかった。彼は計の付いたをろした。
「らなくて、ごめん」
ふみはうなずきもせず、茶碗を切り籠へ伏せた。
ポケットので話が鳴った。秘からだった。健はのにて、午の協議を担当役員に引き継ぎ、自分の承認が必な案件は夕方に連絡をもらうよう頼んだ。
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先方には自分から事を伝えると付け加えた。
席へ戻ると、ふみがこちらを見ていた。
「仕事はいいのかい」
「任せてきた。何まで?」
「昼の片付けが終わるまで」
「ここで待っていてもいい?」
母はしを置き、客の邪魔にならない所なら、と答えた。健は席に戻り、めかけた鯖をへ運んだ。母は々腰を伸ばしながら、器を洗っていた。
客が減り、主が入の札を裏返した。エプロンをしたふみが、古い布の鞄を持っててきた。健は子からち、今度は先にを伸ばさずに尋ねた。
「活費、りなかった? 毎20万円、送っていたはずなんだけど」
ふみは鞄の持ちを握り直した。
「20万円?」
「うん。止めたことはないよ」
母は彼の目を見た。った様子よりも、言葉のを確かめているように見えた。
「最におが届いたのは、14もだよ」