"母の通帳に記された450円の謎" 第5話
夫がきていた頃はよくこの部で2、い酒を酌み交わして笑いっていた。夫がくなってからも私のやつれ方を配しては、傷んだリンゴや根の葉を「ゴミになるだけだから」と、くあるいはタダ同然で分けてくれていた。
本当はこんな惨めな姿を見せたくはなかったけれど、今の私はき延びるために残されたわずかなプライドを捨てていすしかなかった。
アパートのい扉を押しけると、突き刺すような寒気が正面から私を叩いた。はない。ただ々とり続くが、音もなく世界をく塗りつぶしていく。私は杖をのに突きて、1歩、また1歩と鉛のようにいをかした。元は凍りつき、くなった靴底からは面のたさが直接伝わってくる。臓が激しく波打ち、肺の奥がたい空気で焼けるように痛んだ。
「あとし……あそこの角を曲がれば茂さんのおだわ……」
自分を奮いたせるようにので何度も繰り返す。けれど、3ヶに渡る極限の節約活で私の体力はとうに底をついていた。界が急激に狭まり、周囲の音がざかっていく。灯のがになり、まるで万華鏡のように揺らめいた。
膝から力が抜け、界がに反転した。杖がかられ、アスファルトのに乾いた音をてて落ちる。
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私の体もまた従ってたいのに崩れ落ちた。
顔の半分がに埋まり、烈なたさが皮膚を刺すけれど、議と痛みはじなかった。ただどこまでもく暗い眠りの底へ引きずり込まれていくような、恐ろしくもよい覚だけがあった。
(もうかなくていい……もう寒さに震えなくていい……)
そんな誘惑に負けそうになった。
そのだった。
「おい、しず子さん! しず子さんじゃないか、丈夫か!?」
野太い声がのからってきた。続いてダンボールを投げ捨てるような激しい音が響く。
「しっかりしろ! おい、目をけろ、しず子さん!」
のに膝をつく気配がし、私の体はきな温かいによって引に抱き起こされた。目をけると、そこには眉にいシワを刻み、顔を真っ赤にして私を覗き込む茂蔵さんの姿があった。
「茂蔵さん……ごめんなさい、ちょっと疲れちゃったみたいで……」
言葉を絞りそうとしたが、唇は凍りついたようにかなかった。界が急激に狭まり、たいのに崩れ落ちる。真っ暗な識ので最にをよぎったのは、方らずになったあの菓子箱のことだった。
(健が幼いでいてくれた、私の好きな似顔絵……お母さん、好きだよ……)
かつての幼い健の声がの音に混じって優しく聞こえたような気がした。
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私の肉体はもう1分1秒の猶予もないほど限界を超えていたのだ。たいに包まれながら、私はい、いの底へと落ちていった。
半:崩壊する嘘と真実の
瞼の裏側がぼんやりとい。をつく消毒液の独特な匂いと、規則に刻まれる子音。たい目をけると、そこには見覚えのない真っな井が広がっていた。
「ここは、どこかしら……?」
私はかすれた声でつぶやこうとしたが、喉が焼けるように乾いていて、言葉がうまくてこない。腕を見ると、細く痩せた血管に透なチューブがつながり、点滴の袋から滴ずつ静かに液体が落ちていった。
「おっ、しず子さん、気がついたか! よかった、本当に良かったぜ……」
線を横にかすと、そこにはパイプ子に腰かけた茂蔵さんがいた。いつもの威勢の良い百の格好ではなく、しよれよれになったジャンパーを羽織り、充血した目で私を見つめている。
「茂蔵さん、私、どうして……?」 「うちののでぶっ倒れたんだよ! 救急で運ばれてから丸眠りっぱなしだったんだぞ、配させやがって……!」
茂さんはきなで顔を覆い、したようにく息を吐いた。その、病のドアが静かにき、を着た初老の医師が入ってきた。医師は元のカルテに目を落としながら、厳しい表で私のベッドサイドにった。
「しず子さん、気分はどうですか? 識が戻ってしましたが、正直に言って、あなたの体の状態は極めて刻です」