"20人の宴会、妻は2つの鞄を用意していた" 第2話
母だけが残った
美紀の元には、きな鞄が2つ置かれていた。片方のから、優奈の黄いパジャマと母子帳の入った透ケースが見えている。衝に詰めた荷物ではなかった。必な物だけが、迷いなく選ばれていた。
「るって、どこへ」
私が聞くと、美紀はすぐには答えず、優奈の濡れた袖をタオルで拭いた。
「彩のところ。しばらく置いてもらう約束をしてた」
森彩は、美紀がデザイナーとして働いていた頃の同僚だ。最も連絡を取っていることはっていたが、逃げ先として頼っていたとは像もしなかった。
母がリビングから追ってきた。
「勝にていくなら好きにしなさい。でも優奈は置いていきなさいよ。佐藤の孫なんだから」
美紀の背が張り、優奈が母親の脚にしがみつく。
「母さん、荷物をまとめてくれ」
「どうして私がていくのよ。ここはあなたのでしょう」
母は散らかったリビングを指した。ワインの染みたクロスも、に落ちた割り箸も、妻が片づけて当然だと言わんばかりだった。
「違う。このは美紀のでもある」
言いながら部を見回すと、張には気づかなかった変化が次々と目に入った。蔵庫に貼ってあった優奈の絵は剥がされ、ダイニングの隅には母の茶具が積まれている。美紀が仕事をしていたさな机には、母の着物箱が3つねられていた。
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母が暮らし始めてから、このはしずつ母のへ変わっていた。それを毎晩遅く帰る私は、片づけ方が変わった程度にしか考えていなかった。
「専業主婦が何をしたっていうの。稼いだのはあなたじゃない」
私は斎の耐ケースから、産登記の控えと売買契約を取りした。購入価格は7600万円。結婚からデザイン会社で働いていた美紀は、として900万円をしている。登記の持分も、美紀が3分の1を所していた。
母は類に目を落としたが、すぐで笑った。
「たった900万円で、息子と同じ顔をするつもり?」
「額を決めるのは母さんじゃない。なくとも、美紀はここにむ権利がある。母さんは、私たちが同しているだけ同居していたんだ」
にしてから、胸の奥に鈍い痛みがった。母の同居を決めたのは、ほとんど私だった。11か、相模原で1暮らしをする母から膝の痛みとを訴えられ、美紀の迷いを「すぐ慣れる」と押し切った。
その結果が、赤く腫れた優奈のと、のそばに置かれた2つの鞄だった。
母は私が折れるとったのか、急に声をめた。
「私はあなたのためにをえていただけよ。美紀さんは何を頼んでも嫌そうな顔をするし、優奈は母親に甘やかされている。あなたが仕事に集できたのは誰のおかげ?」
以の私なら、その言葉に迷ったかもしれない。
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母と妻の双方をなだめ、結論を先送りしていたはずだ。しかし今、目のにいる美紀は、母を嫌っているではない。母に見つからないよう、母子帳まで鞄に隠しただった。
「美紀、何があったのか全部話してくれ」
私が歩づくと、優奈が両腕を広げて母親のにった。
「ママをらないで」
細い腕だった。それでも娘は、私から美紀を守ろうとしていた。
「らない。もう誰にもらせない」
私は膝をつき、優奈と目のさをわせた。
「どうしてお皿を洗っていたんだ?」
優奈は美紀の顔を見げた。言っていいのか確かめるような目だった。美紀がゆっくり頷くと、娘は赤い指を握りしめた。
「おばあちゃんが、お皿を全部洗わないと晩ご飯はないって。ママの分も、優奈がちゃんとしないとなくなるって」
背で、母がく息を吸った。
「しつけよ。5歳ならお伝いくらい――」
私はちがり、母の言葉を遮った。
「5歳の子に、20分の皿を洗わせることがしつけなのか」
母は答えず、美紀を睨んだ。
その線を見た優奈が、今度は声をさずに震え始めた。