"身重の愛人を抱き起こした私" 第8話
「……あ、奥さん」
葵の声は掠れていた。 昨夜のあの傲な態度は鳴りを潜め、居の悪そうに線を泳がせている。
「お医者様から聞きました。血は止まったそうですね。お茶を買ってきましたけど、めますか」
私はプラスチックのコップに温かいお茶を注ぎ、ベッドサイドのテーブルに置いた。 葵はその湯気をじっと見つめ、さく呟いた。
「……どうして、そんなに親切にするんですか」
「親切ではありません。あなたがここで倒れて、佐藤ので何かあったら、始末が面倒なだけです」
私がを交えずにそう言うと、葵は自嘲気に元を歪めた。
「そうですよね……。私、奥さんから旦さんを奪おうとした棒猫ですもんね。憎いに決まってますよね」
「奪おうとした、ね」
私は葵の向かいにあるパイプ子を引き、腰をろした。
「ずいぶん自信があるのね。康平が、本当にあなたを選んだとっているの?」
葵の表が張った。 シーツのに隠したスマートフォンを、く握りしめるのが布越しに分かった。
「選んでくれました! 康平さんは、私とお腹の赤ちゃんをしてくれてるんです! 奥さんみたいにたくて、子どもの産めないとはもう暮らせないって……!」
必に自分に言い聞かせるような叫びだった。 だが、その言葉の裏にある脆さを、私は見逃さなかった。
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「なら、どうして康平はここに来ないの?」
「え……?」
「あなたが救急搬送されてから、もう以が経っているわ。自分の子どもが流産しかけたというのに、康平は度も顔を見せない。話の本も寄こさない。それが、あなたをしている男のすること?」
「そ、それは……! 仕事が忙しいからです! 康平さんは課だから、朝のミーティングを抜けられないって……!」
「嘘をつくのはやめなさい」
私はたく遮った。
「そのスマートフォンに、康平から何て送られてきたの? 見せてみなさいよ」
「嫌です! 奥さんに関係ないでしょう!」
葵は子どもが宝物を守るように、スマートフォンを胸元に抱え込んだ。 だが、その瞳には粒の涙が溜まり、今にも零れ落ちそうになっていた。
私はため息を吐き、バッグから枚のつ折りにしたを取りした。 昨夜、自宅のプリンターで印刷してきた、ある類のコピーだ。
「これを見なさい」
私はそのを広げ、葵の膝のに置いた。
「……何、これ」
「このの産登記謄本と、昨夜、康平の斎で見つけた類の記録よ」
葵は怪訝そうに眉をひそめ、に線を落とした。 そこには、宅の権利関係、そして康平が抱えている千百万円を超える借のリストが、克に記されていた。
「康平はね、借まみれなのよ。FXの失敗と無謀な投資で、首が回らなくなっているの。
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このも、もうすぐ差し押さえられるわ」
「嘘……そんなの、嘘よ……! 康平さんは商社勤務で、ちゃんとお料もあって……!」
「本当よ。そして、康平がなぜ急にあなたをに連れてきたか、分かる?」
私はを乗りし、葵の目をじっと見つめた。
「私にショックを与えて、刻もく婚届にサインさせるためよ。私が財産分与を請求するにから追いし、このを担保に入れて借を埋めるため。あなたはそのために利用されたの」
「違う……! 康平さんは、跡取りができたってんでくれたもん!」
「週、この病院の診察で、あなたに絶を迫った男が?」
葵の息が、完全に止まった。 顔から急速に血の気が引き、よりもくなっていく。
「な、なんで……それを……」
「昨夜、担当の松永先から伺ったわ。康平は受付で『自分はただの雇い主だ、認もしない』と言い捨てて帰ったそうね。それが、あなたをしている男の真実の姿よ」
葵の唇が激しく震えした。 膝のの類を握りしめるが、くしゃくしゃと音をてる。
「……あいつ……」
葵の喉から、絞りすような嗚咽が漏れた。 彼女はシーツのからスマートフォンを取りし、震える指で画面をタップして、私の方へ放りした。
「これ……見てよ……!」
画面には、今朝過ぎに康平から届いたLINEのメッセージが表示されていた。
『昨の救急代、絶対に俺の名で領収を切るなよ。
おの自腹で払え。 それと、今に会社に退職届をせ。同じ部署におがいると、余計な噂がって俺の査定に響く。