"身重の愛人を抱き起こした私" 第2話
けれど、ここで私が取り乱し、泣き叫んだり物を投げたりすれば、彼らのう壺だ。「やっぱりのおかしい女だった」「追いして正解だった」という免罪符を、自ら渡すことになる。
私は急須に茶葉を入れ、湯を注いだ。 湯呑みをトレイに乗せ、再びダイニングへとを向けた、そのだった。
カシャン、と鈍い陶器の音が響いた。
「……っ……あ……!」
い鳴とともに、葵が胸元を押さえてのめりに崩れ落ちた。 箸がに転がり、彼女の鉢がひっくり返って、汁がいテーブルクロスに濃い染みを作っていく。
「葵? おい、どうしたんだよ」
康平が眉をひそめた。だが、その声には配よりも、骨な苛ちが混ざっていた。
「痛っ……お腹……すごく、痛い……!」
葵は両で腹部を抱え込み、子からずり落ちるようにしてフローリングのにうずくまった。 顔からは見る見るうちに血の気が引いていき、唇がに変していく。額には粒の脂汗が浮きていた。
「ちょっと、葵さん! しっかりなさい!」
義母が慌ててちがったものの、に倒れた葵の体に触れるのを躊躇するように、おろおろとを泳がせている。
「康平、どういうことなの? 赤ちゃんは? 私の初孫はどうなるのよ!」
「るかよ! おい葵、げさに騒ぐなよ。さっきまで普通に笑ってたじゃないか。母さんのでみっともない真似するな」
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康平は苛ちを隠そうともせず、舌打ちをした。 苦しむ女を抱き起すことすらしようとせず、汚れたクロスを見つめて退りしている。 その酷な反応を見た瞬、私の背筋に異様な寒気がった。
自分の子どもを宿しているはずの女が、目ので激痛にのたうち回っているのだ。 配して駆け寄るのが、普通の男の、父親になる男の反応ではないのか。 なぜこの男は、真っ先に「体裁」と「迷惑」を気にして、女を突き放すような目をしているのか。
「う……うぅ……誰か……助けて……」
葵の荒い呼吸が、喉の奥で引き攣れた。 彼女の太もものあたりが刻みに震えている。演技ではない。本物の、危険な発作だ。
「康平、救急を呼びなさい!」
私がトレイをカウンターに置き、い調で言った。 すると、義母が切り声をげた。
「救急だなんて、とんでもない! 所のたちが見たらどうするの! 佐藤のにピーポーピーポーと救急が止まったら、どんな噂をてられるか分かったもんじゃないわ。ダメよ、絶対に呼ばないで!」
「母さんの言う通りだ」
康平が同調した。
「ただの腹痛だろ。べわせが悪かったか、神経質なやつだから緊張しただけだ。階の客で横にさせておけば治る。おい、てるか葵」
康平は屈みもしない。 ので、葵は激痛のあまり言葉もせず、ただ浅い呼吸を繰り返しながら涙を流していた。
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その首は細く、震えは止まらない。
私はそれ以、康平たちに言葉を投げるのをやめた。 に膝をつき、倒れ込んでいる葵の背に腕を回した。
「葵さん、私の声が聞こえますか。どこが番痛みますか」
「腹部……が……引きちぎられるみたいに……」
「血はありますか」
「わから……ない……でも、張りが……ずっと……」
葵の体は氷のようにたかった。 私は迷わずちがり、廊の固定話ではなく、自分のスマートフォンを取りした。 番を押そうとした指を止め、配アプリを起する。救急を拒むこの愚かな親子とここで押し問答をしているはない。夜救急を受け入れている総病院までは、で分だ。
「由! お、何勝なことしてんだ!」
康平が私の腕を掴もうとしてきた。私はそのを鋭く振り払った。
「タクシーを呼びました。分で来ます」
「はあ? げさなんだよ! そんな、どこからすんだ!」
「私の財布からします。文句はありませんね」
私はの葵を抱き起こした。 代半ばの女の体は、驚くほど軽かった。だが、激痛で直した体を支えるのは容易ではない。
「葵さん、私の肩に掴まって。玄関まで歩けますか」
葵は虚ろな目で私を見げた。 さっきまで自分が「等な女」と見し、から追いそうとしていた相の顔を。 彼女の瞳に、烈な屈辱と、それ以の恐怖が揺れくのが見えた。
「なんで……あなたが……」
「喋らなくていいから、をかして。