"身重の愛人を抱き起こした私" 第1話
「座りなさいよ、由さん。突っっていられると落ち着かないわ」
義母・敏子の乾いた声が、静まり返ったダイニングに落ちた。
テーブルのには、私が午からかけて仕込んだ目鯛の煮付けと、季節の鉢が分、然と並んでいる。 だが、私の座るべき席――夫である康平の正面には、見らぬ若い女が腰をろしていた。
透けるようない肌に、淡い桃のアンサンブルニット。 えられた栗の巻き髪からは、甘い果実のようながかすかに漂っている。 その女、葵と名乗った代半ばの女の腹部に、義母は先ほどから狂おしいほどのつきで何度も触れていた。
「ああ、本当に信じられない。何も、何も待っていたのに……神様はちゃんと見ていてくださったのね」
義母は歓に声を震わせ、女の腹をさすりながら、わざとらしく私を横目で睨めつけた。
「康平の子どもを宿してくれる女性が、やっと現れたのよ。由さん、あなたもこのにいて、しは申し訳ないという気持ちがあるなら、葵さんにをげなさい。佐藤の跡取りを産んでくださる、切な恩なんだから」
昨夜の景が、私のの裏側で々しく蘇る。
仕事から帰るなり、康平は着も脱がずに、緑の婚届をテーブルに叩きつけた。 『おにはもう何のも湧かない。
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互いのために、さっさとサインしてくれ』 氷のようにたい声だった。結婚して。子どもに恵まれず、義母からの執拗な嫌に耐え、康平の顔を伺いながら庭を守ろうとしてきた々の結末が、その枚のだった。
そして今夜。 康平は「今の実務な話を詰める」と言って、この葵という女を平然とがに連れてきたのだ。
「由」
康平が腕を組み、ややかな線を私に向けた。歳、堅商社の営業課。では当たりの良い好物で通っている男の、内側に潜む無慈な顔がそこにあった。
「驚くのも無理はないが、これが現実だ。葵のお腹には俺の子がいる。もう妊娠ヶに入るところだ。俺たち夫婦のには、最初から子どもができる余なんてなかったんだよ。おも無駄な妊治療で痛いいをするより、これで肩の荷がりただろう」
「肩の荷……?」
私の喉から、く掠れた声が漏れた。
「そうだ。俺は男だし、母さんに孫の顔を見せる義務がある。おを責めてるわけじゃない。ただ、物としての役割を果たせなかった女に、いつまでも執着する男はいないってことだ。幸い、葵は若くて健康だ。おがいつまでもこのに居座ると葵の胎教にも悪い。今週にていってくれ」
葵は、康平の言葉にわせるように、さく私の顔を盗み見ていた。
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申し訳なさそうな表を作ってはいるが、その瞳の奥には、正妻から男とを奪い取ったという隠しきれない優越が透けて見えていた。
「奥さん……本当にごめんなさい」
葵はわざとらしく両を膝ので揃え、舌らずな声をした。
「私、康平さんから、奥さんとはとっくに庭内別居状態で、なんてひとかけらもないって聞いていたんです。赤ちゃんができたってった、康平さん、泣いてんでくれて……。私、どうしてもこの子を佐藤で育てたいんです。奥さんのお気持ちを考えると胸が痛みますけど、でも、まれてくる命には罪はありませんよね?」
世らずを装った、完璧な毒だった。 の私の苦痛を、「のない同居」の言で片付け、自分こそが救世主であると信じて疑っていない顔だ。
「葵さん、そんな等な女に謝る必なんてないのよ」
義母が遮るように言い、葵の茶碗に煮付けのをほぐして乗せた。
「さあ、めないうちに召しがれ。あなたがたくさん栄養を取らなきゃ、うちの事な跡取りがきくならないわ。由さん、お茶がぬるいわよ。く淹れ直してきなさい。最まで気が利かない女ね」
私は何も言わず、テーブルのお茶碗を引いた。 悔しさでが震えるかとったが、議なほど指先はえ切っていた。 台所にち、湯沸かし器の点ボタンを押す。
青い炎が静かに揺れるのを見つめながら、私はく息を吸い込んだ。
このたちは、完全に狂っている。