"息子が私の家を売る夜" 第17話
さんはその名刺に刷り込まれた『司法士 成瀬敬郎』の文字を見た瞬、わずかに背筋を正し、ネクタイの結び目にをやりました。百戦錬磨の産営業マンです。このに「プロの目」が紛れ込んでいることのを、瞬に察したようでした。
「では……本のお話ですが、介様および智美様から事にお伺いしております、練馬区関町丁目の建物に関する専任媒介契約、およびそれに伴う売却続きについてご説させていただきます」
さんはアタッシュケースから、分い類の束を取りしました。 『専任媒介契約』『売却価格査定報告』『産売却委任状』。 カーボンが挟まれた、々しい契約の束が、テーブルの央に然と並べられました。
「査定額につきましては、回の簡易査定通り、千百万円での売りしをご提案させていただきます。面積は約坪、第種層居専用域。古付きですが、更渡しを条件とすれば、買いはすぐに見つかる優良物件でございます」
「更渡し……」
介が、掠れた声で呟きました。 智美さんが、テーブルので介の太ももを突くのが見えました。
「ええ、さん! 更で結構ですわ。解体業者の配も、そちらで括してお任せできるのでしたわね?」
「はい、提携の解体業者をご紹介能です。
広告
費用は約百万円ほど見込んでいただければ、売却代のから相殺決済が能です」
智美さんの目が、欲望の炎でギラリとりました。 千百万から、解体費を引いても千百万以が元に残る。 このの宅ローンの残債を全額括返済しても、まだ元に数百万円が余る。
彼女の線は、すでに目のの類に釘付けになっていました。 しかし、さんは、営業マンとしての笑顔を保ちつつも、極めて慎な調で、座に座る私の方へと向き直りました。
宅建業法第条、および犯罪収益移転防止法に基づく、厳格な「本確認」と「確認」のプロセスでした。
「……島子様」
さんは姿勢を正し、私をまっすぐに見つめました。
「失礼ながら、登記簿謄本を拝見いたしますと、当該物件の所名義は、子様おとなっております。本の売却のご決断につきまして、子様ご本のごに違いございませんでしょうか?」
待っていました、と言わんばかりに、智美さんがを乗りしました。
「さん! その件でしたら、お話でもお話ししました通りですわ!」
智美さんは、まるで私の発言を遮る壁を作るように、甲い声で割って入りました。
「母は先、の骨折で入院いたしましてね。それ以来、々物忘れがしておりまして……常活の細かな判断や、法な続きをで理解するのは、々難しい状態なんですの。
広告
ですから本は、男である介が全権代理として、委任状に基づいて続きをめさせていただきますわ」
「代理、ですか……」
さんの眉が、微かに寄りました。 産取引において、齢の所者が「認能の」を理由に親族に代理させるケースは、最も々のトラブルに発展しやすい危険帯です。万が、契約に「本は売る気がなかった」「判断能力がない状態での契約は無効だ」との親族や見から訴えられれば、仲介業者も巨額の損害賠償と業務止処分をらいかねません。
「介様が代理されるのは結構ですが……原則として、委任状には所者ご本の自でのご署名と、実印のご捺印、そして発からヶ以内の印鑑登録証が必となりますが……」
さんの慎な問いかけに、智美さんは勝ち誇ったように唇を歪めました。
「ええ、もちろん用してございますわ!」
智美さんはエルメスのバッグの底から、あの古びた桐の箱を取りしました。 そして、恭しく両で掲げると、さんの目ののテーブルに、コトンと音をてて置きました。
「これが、主の父から引き継がれ、義母が何も切にしてまいりました、島子の『実印』でございます。今朝、義母本から『もう自分では管理できないから、すべて介と智美さんに任せる』と、自発に渡されたものですわ」