"息子が私の家を売る夜" 第16話
登記とか、相続とか、昔から全部このに頼んでて……」
智美さんの顔に、焦燥と苛ちが広がりました。 ちょうどその、再びインターホンが鳴りました。
「あ……!」
智美さんは弾かれたように計を見げました。午分。 本命の来客でした。
智美さんは成瀬先を玄関にたせたまま、慌ててドアの鍵をけました。 そこにっていたのは、細のスタイリッシュなスーツを着こなした、代半ばの男性でした。には「都リアルエステート」のロゴが入った質なアタッシュケース。胸元には宅建物取引士のバッジがっていました。
「こんにちは! 都リアルエステートの営業第課、と申します。本はお約束のおをいただき、誠にありがとうございます!」
と名乗る営業マンは、絵に描いたような爽やかな笑顔で々とをげました。 玄関に、異様なつ巴の空気が流れました。
島紬を着て静かに佇む私。 濃紺のスーツで徹に周囲を観察する成瀬先。 脂汗を流してち尽くす介。 そして、状況を必でコントロールしようと肩を震わせる智美さん。
さんは瞬、玄関のただならぬ雰囲気に気圧されたように瞬きをしましたが、すぐにプロの営業スマイルを取り戻しました。
「あ、あの……本、売却のご相談ということで伺ったのですが……皆様お揃いでしょうか?」
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「ええ、ええ! さん、どうぞがってください!」
智美さんは無理やり甲い声を張りげ、成瀬先を骨に押し退けるようにしてさんを迎え入れました。そして、私に向き直ると、威圧ない囁き声で言いました。
「お義母さん。お客様が見えたんですから、成瀬さんとやらをお部にお連れして、お茶でもんでいてくださる? 私たちはこれから、このと将来に関わる、極めてな契約の話をするんですから。お義母さんがち会うような話じゃありませんのよ」
「智美さん」
私は、智美さんの目をまっすぐに見据えました。 その声は、く、涼やかで、リビングの隅々までよく通る響きを持っていました。
「練馬のは、私がパーセント、くなった健さんがパーセントの持分で建て、健さんがくなったは、正式な遺産分割協議を経て、私が百パーセントの単独所権を相続した産です。その売却の話をするのに、登記名義である私が同席しない理がどこにありましょうか」
「な……」
智美さんの息が止まりました。 淀みなく紡ぎされた正確な権利関係の言葉に、智美さんはまるで平打ちでもらったかのように目を見張りました。
玄関にいた成瀬先が、静かに頷きました。
「子さんの仰る通りです。産の売買において、真の所者の同席と確認は、宅建物取引業法および登記実務、最も基本となる原則ですよ。
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……奥さん、私も登記の専として、同席させていただいてもよろしいかな?」
智美さんの唇が、屈辱と混乱で刻みに震えました。 断る理由は、どこにもありませんでした。ここで頑なに拒絶すれば、目のの産営業マンに「何かやましい事がある」と自ら告するようなものです。
「……ええ。ええ、どうぞ。隠すことなんて何もございませんもの」
智美さんは引きつった笑みを浮かべ、奥歯をギリギリと噛み締めながら、全員をリビングへと案内しました。
がけのダイニングテーブルに、異様な陣形が組まれました。
座の央には、私が座りました。 私の隣には、ブリーフケースを膝のに置いた成瀬先。 対面には、産のさんが類を広げる準備をえています。 そして、私の斜め向かいに介がさくなって座り、その隣に智美さんが、エルメスのバッグを抱え込むようにして陣取っていました。
智美さんはちがり、台所からたい麦茶を全員のに配りました。 しかし、そのは微かに震えており、グラスがテーブルに当たるたびに、カチリ、カチリとい音が鳴りました。
「コホン。……改めまして、都リアルエステートのでございます」
さんは名刺をテーブル越しに滑らせました。 成瀬先もまた、無言で自分の名刺を差ししました。