"息子が私の家を売る夜" 第13話
たく湿った、息子のでした。
「母さん……頼みがあるんだ」
介の声は、今にも泣きしそうに震えていました。
「頼み?」
「……昼、由紀があんなに騒いで、母さんにも聞こえちゃったかもしれないけど……智美も、決して悪気があるわけじゃないんだ。あいつも、こののことや、由紀の将来のことで、精神に追い詰められててさ」
介は、言い訳を並べて始めました。 妻のせい、子供のせい、況のせい。 何つとして、自分の欲だとは認めようとしない、いつもの介の逃げでした。
「母さん。練馬のだけどさ……やっぱり、売ることを考えてくれないか?」
ついに、息子のからその言葉がました。
「あそこにでむのは、母さんの体にとっても危険すぎるよ。あそこを売って、こののローンを返して、元に残ったおで、このを世帯宅にリフォームしようとうんだ。母さんの部も、もっと広くて当たりのいい部にする。これからは、俺たちと緒に、ずっとここで暮らせばいいじゃないか」
介は必の形相で、私の顔を覗き込んできました。
「母さん、頼むよ。俺を助けるとってさ……『うん』って言ってくれよ。智美に預けた実印を使って、続きをめていいって、そう言ってくれよ」
彼は、私が「糊塗」されていることを提にして、すがりついてきているのではありませんでした。
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私がすべてを理解したで、母親としてのに負けて、すべてを差しすことを求してきているのです。
自分のさを武器にして、母親の首を絞める。 これほど残酷な裏切りが、にあるでしょうか。
私は、介に握られた自分のを、じっと見つめました。 かつて、さく温かかった息子の。 今、私からすべてを奪おうとしている、たい。
胸の奥が、ギリギリと音をてて軋みました。 けれど、私の瞳からは、涙の滴すらこぼれませんでした。 しみは、すでに通り過ぎていました。ここにあるのは、絶対な氷の静寂だけでした。
私は、ゆっくりと顔をげました。 そして、暗ので、母親の最も慈い笑みを浮かべてみせました。
「……そうね」
私の静かな声に、介のきが止まりました。
「介。あなたがそこまでい詰めていたなんて、私、ちっとも気づいてあげられなくてごめんなさいね」
「母さん……?」
介の目に、信じられないというような、そして狂の混じったが灯りました。
「あなたがそうやってをげて頼むなら……分かりましたよ。練馬の、売りましょう」
「本当か!? 本当なのか、母さん!」
介は私のをく握り締め、子供のように破顔しました。
「ええ。智美さんに預けた実印を使って、あなたたちの好きなように続きをめなさい。私はもう、何も言わないわ」
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「ありがとう……! ありがとう、母さん! やっぱり母さんは、俺の方だって分かってたよ!」
介は畳に額をこすりつけるようにして、何度も何度も礼を言いました。 その姿は、あまりにも滑稽で、れでした。
彼は、自分が何を差ししたのかを分かっていませんでした。 母親の魂を売り払い、その代償としてに入れた偽りの息に、ただ酔いしれているだけでした。
「介、もう遅いから。智美さんにもそう伝えて、おやすみなさい」
「ああ! すぐ智美に話すよ! おやすみ、母さん!」
介は弾むような取りで部をていきました。 廊をりでっていく息子の音を聞きながら、私は静かに掛け布団を直しました。
障子の向こうで、がたく輝いていました。
介。 あなたはそので、自ら獄の釜の蓋をけにくのね。
私があげた度の会を、すべてドブに捨てて。 あなたが選んだそのを、最まで歩んでみなさい。
翌の曜の朝。 卓の空気は、夜とは打って変わって異様な揚に包まれていました。
智美さんは、まるで宝くじに当たったかのように嫌で、朝から交じりにフレンチトーストを焼いていました。介も、憑き物が落ちたようにれやかな顔をして、ネクタイを締め直していました。
「お義母さん、昨夜は介から聞きましたわ」
智美さんが、わざとらしく恭しいつきで、私のに茶を置きました。
「本当に、賢なご決断をありがとうございます。