"息子が私の家を売る夜" 第10話
「母さん、何を言いすんだよ」
介は軍を乱暴に脱ぎ捨てました。
「度預けたものを、そんなコロコロ変えるなよ。智美がどれだけ気を使って管理してくれてるとってるんだ? 母さんの部に置いておいたら、またどこにやったか分からなくなるに決まってるだろ」
「失くしたりしないわ。私はちゃんと……」
「『ちゃんと』できてないから、こうやって俺たちが面倒見てるんじゃないか!」
介の鳴り声が、狭い玄関に響き渡りました。 のコンクリートのに、私のと、介のが並んで落ちていました。
「実印なんて、持ってたって母さんには使いがないだろ! 智美に任せておけばいいんだよ。変に詮索して、智美の嫌を損ねるような真似はするな。俺のも考えてくれよ!」
俺の。 介のからたその言葉に、私はのでく息を吐きしました。
母親の尊厳よりも、妻の嫌。 そして、自分たちの借をチャラにするための計画。 介にとって守るべき「」とは、母親を犠牲にして成りつ、ちっぽけな平穏のことだったのです。
「……そう。あなたがそう言うなら、分かったわ」
私は懐計をポケットに戻し、静かに背を向けました。 背で、介が吐き捨てるように荒い息を漏らし、再びゴミの片付けを始める音が聞こえました。
度目の試も、真っ黒でした。
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彼は、私から印鑑を取り戻す会を、自らので握りつぶしたのです。
そして、度目の会は、そのの夜に訪れました。
計の針は午を回っていました。 のえ込みがまり、私は客のい毛布ので、目を冴えさせていました。
台所の方で、コップの触れう微かな音がしました。 私は静かに起きがり、カーディガンを羽織って部をました。
暗いリビングの照の、介がで蔵庫のにち、ペットボトルのを喉に流し込んでいました。仕事着のワイシャツのボタンを胸元までけ、髪をボサボサにかきむしっています。その背には、暗いが張り付いているようでした。
「介」
私が背から声をかけると、介はびがるほど驚いて振り返りました。にしたペットボトルのが、しだけにこぼれました。
「か、母さん……まだ起きてたのか」
「眠れなくてね。し、お腹を温めようとって、牛乳を温めに来たのよ。あなたもむ?」
介は返事をせず、ただ力なく首を横に振りました。 私は鍋に牛乳を注ぎ、ガスコンロのにかけました。青い炎が、暗い台所をさく照らしします。
鍋の縁にさな泡がち始めるのを眺めながら、私は穏やかにをきました。
「介。会社で、何か辛いことでもあるの?」
介の線が、のフローリングの継ぎ目へと落ちました。
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「……別に。何もないよ」
「嘘をおっしゃい。あなたの母親を、何やっているとっているの。子供の頃から、あなたは何かに追い詰められると、そうやって無識にの親指の爪を弄る癖があるでしょう」
介のが、ピクリと止まりました。 彼は慌ててをポケットに突っ込みました。
「介。もし、おのことで困っているなら、正直に言ってちょうだい」
私の静かな言に、暗の空気が張り詰めました。
「こののローンや、由紀ちゃんの学費のこと……智美さんがで抱え込んで、ピリピリしているのもっているわ。私ね、練馬のに、健さんが遺してくれた定期預の証があるの。そんなにきな額じゃないけれど、当面のしにはなるはずよ。だから、無理をして……誰かを騙したり、おかしなをしようとしなくていいのよ」
私は鍋のを止め、温まった牛乳をマグカップに注ぎました。 ちるい湯気が、のの空を満たしていきました。
これが、最の会でした。 「母さん、すまない。本当はローンの返済にき詰まっていて、智美と緒に母さんのを売ろうとしていたんだ。許してくれ」
もし彼がそう言って私の元にすがりつき、涙を流して詫びたなら。 私は、あの練馬のを自らので売り払い、息子の借を清算してやったかもしれません。
それが、愚かな母親の、最のけというものでしょう。