"息子が私の家を売る夜" 第7話
ダイニングルームが、を打ったように静まり返りました。 壁にかかった計の秒針が、カチ、カチ、と無質な音を刻むのだけが聞こえます。
智美さんは、目のに差しされた桐の箱と、私の顔を、信じられないものを見るような目で見比べました。昨夜、あれほど血になって探そうとしていた「番欲しかったもの」が、何のもなく、向こうからび込んできたのです。
「預かるって……お義母さん、本当にいいんですか? 実印ですよ? やに関わる、番切なお印鑑ですよ」
智美さんの声は、ずっていました。建を取り繕おうとしながらも、その目はすでに桐の箱に釘付けになっていました。
「ええ。介のお嫁さんであるあなたに預けるのが、番だもの。私にはもう、使いもないしね。介、それでいいわよね?」
私が介に向かって優しく微笑みかけると、介はビクッと肩をねげました。 彼の顔はみるみるうちに赤くなり、そして蒼へと変わっていきました。罪悪と、いがけない幸運への浅ましいびが、その顔ので醜くせめぎっているのが見て取れました。
「あ……ああ。母さんがそう言うなら、智美に預けておくのが番全だよ。失くしたら変だしな」
介は、目を逸らしながらそう答えました。 その声は、かすかに震えていました。
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「よかった。じゃあ、智美さん、お願いね」
「……はい。お義母さんのお気持ち、無駄にはいたしませんわ。私が責任を持って、切に、切に保管させていただきますね」
智美さんは、まるで宝物に群がる蟻のように、両で恭しく桐の箱を抱え込みました。その元には、抑えきれない歓の笑みが、醜く歪んで浮かびがっていました。
勝った。 これで練馬のは自分たちのものだ。 このボケかけた寄りは、自ら首を差ししてきたのだ。
そう言わんばかりの、勝ち誇った線が私に向けられました。
私は、背筋をピンと伸ばしたまま、静かにお茶をすすりました。 温かいほうじ茶のりが、喉を通り抜けていきます。
智美さん。 介。
あなたたちは、自分が今、何を受け取ったのかを全く分かっていないのね。
湯気の向こうで、私はので静かに呟きました。 その桐の箱のが、やがてあなたたちののすべてを焼き尽くす、決定な種になることもらずに。
「さあ、朝ごはんの片付けをしなくちゃね」
私は誰よりも穏やかな声でそう言い、自分の湯呑みを両で包み込みました。 私の戦いは、今、始まったばかりでした。
桐の箱が智美さんの両に収まってから、このを流れる空気は目に見えて変わりました。
智美さんの私に対する態度は、表面、これ以ないほどいものになりました。
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朝の焼き魚にはすだちが添えられ、には皮を丁寧に剥いた梨が、鉢に盛られて運ばれてくるようになりました。
「お義母さん、の果物は体にいいですからね。喉を詰まらせないように、さく刻んでおきましたから」
そう言って微笑む智美さんの声には、どこかに施しを与えるような、勝ち誇った余裕が滲んでいました。 しかし、その丁寧さの裏側で、彼女のは急速に胆さを増していました。
リビングの話台の引きしから、古いノートや帳が次々と持ちされ、智美さんのによって選別されていきました。、私が客にいると、廊から智美さんの弾んだような、しかし声を潜めた話のやり取りが頻繁に漏れ聞こえてきました。
「ええ、そうです。練馬の物件の件で……はい、権利証と実印の所は確認できております。あとは本の能力の確認続きをどうめるかですが……ええ、成見の申してと、任見、あるいは族信託の続きを並して検討したくて。いうちに度、査定にいらしていただけますか?」
彼女はもう、隠そうとすらしていませんでした。 壁枚隔てた向こうにいる義母が、すべてを聞き取っているかもしれないという像力すら、彼女のからは抜け落ちているようでした。「印鑑をに入れた」
という事実が、彼女ので完全な勝利宣言になっていたのです。
方、息子の(介)の様子は対照でした。