"息子が私の家を売る夜" 第3話
を打ったわけでもないし、のの段差ならもう慣れているわ」
「そうやってを張るのが、番周りに迷惑をかけるんだって」
介の声には、苛ちが混じっていました。しかし、その苛ちは、怪を配する息子のそれというよりは、決まった計画を邪魔されたくないのそれに聞こえました。
「お義母さん」
智美さんが、私の茶碗に米をよそいながらを挟みました。
「介の言う通りですよ。練馬のおは築でしょう? 耐震性だってだし、階段も急です。あんな古いにでまわせるなんて、親孝だってご所からもろ指を指されちゃいます。ねえ、由紀もそううでしょう?」
話を振られた由紀は、居悪そうに線を落としました。
「……おばあちゃんが自分のに帰りたいなら、それでいいんじゃないの? あそこ、おじいちゃんとのいがたくさんあるだし」
「由紀は余計なを挟まないの。の事が分からないくせに」
智美さんの鋭い言で、由紀はをつぐみました。
「介さん、お義母さんの病院の先にも、私から相談しておくわね。『自宅で暮らしを続けるのは活環境、極めてリスクがい』って、いてもらえるように」
智美さんはそう言って、介にありげな線を送りました。介は何も言わず、ただ黙って線を逸らし、ぬるくなったお噌汁をすすりました。
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私の息子の、そのけない横顔。 彼が何かを隠している。何かを智美さんと共し、私に対してを閉ざしている。
母親としての勘が、胸の奥で警鐘を鳴らしていました。 私はそれ以、練馬に帰る話を持ちしませんでした。これ以押せば、相がどのような防壁を築くかを警戒したからです。
夕が終わり、私は「し横になるわね」と告げて、階の客へと引きげました。
畳の。かつては物置代わりに使われていたこの部には、必最限の布団と、さな理タンスしかありません。壁にかけられたカレンダーには、智美さんので「デイサービス見学」「介護認定調査」と、私の預かりらぬ予定が勝にき込まれていました。
私は気を消し、布団のに潜り込みました。 首の古傷が、え込みとともにシクシクと痛みました。、胃がんで先ってしまった夫・健の顔が、暗のに浮かびがってきます。
『子、介は優しい子だが、し流されやすいところがある。困ったは、声のきい方に引きずられる。おがしっかり見てやってくれよ』
夫が息を引き取る数、病で私に遺した言葉でした。 あのの介は、父親のを握りしめて子供のように泣いていました。あの涙は決して嘘ではなかったはずです。真面目で、気がく、争いごとを嫌う息子。
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その息子が、今、私のらない所で、智美さんと何を話しっているのか。
計の針が、夜のを回った頃でした。 私は、喉の渇きと首の鈍い疼きで目を覚ましました。枕元のペットボトルのは空になっていました。
私は音をてないよう、慎に布団から抜けしました。杖を突くとフローリングにコツコツと音が響いてしまうため、壁にを当て、摺りでゆっくりと襖をけました。
廊はえ切っていました。 リビングの方から、微かなかりが漏れていました。ドアのすりガラス越しに、い話し声が聞こえてきます。
こんなに、まだ起きているのかしら。
私はを止めました。廊の壁にを寄せ、息を殺しました。 すりガラスの向こうで、智美さんの甲い囁き声と、卓を叩くパチパチという乾いたプラスチックの音が響いていました。
「……だからね、介さん。悠なことを言っているじゃないのよ」
智美さんの声でした。昼の猫なで声とはまるで違う、苛ちと徹さが剥きしになった声音でした。
「来には由紀の私学の推薦入試の納付があるの。入学と期の授業料だけで百万よ? その、あなたののボーナスがまたカットされたら、このの宅ローンのボーナス払い、どうやって補填するつもりなの?」
「それは……分かってるよ。