"父の料亭を継いだ翌日、板長が全員連れて独立" 第4話
「9に?」
「『先代はもうくない。のはいずれ畳む。自分がしいをやるから、今まで通り酒を入れてくれ』と」
父が倒れたのは103だ。
9半ば、父はまだ板へっていた。
駅の管理会社へ確認すると、しいの物件契約は912。内装事は929に始まっていた。
父が倒れる4だ。
葬儀で々とをげていたには、もうしいのを剥がしていたことになる。
へ戻った私は、ようやく父のノートをいた。
30の付から、従業員が入ったと辞めたがずつ記録されている。端には、父のさな字で、そのについてい言葉が添えられていた。
《実のを継ぐ。祝い済み》
《腰を悪くする。見い》
《京へ。いいだ》
そんな、10ほどから、妙に同じ言葉が増えていた。
《黒田君》
ただそれだけだった。
ページをめくるほど、その3文字が何度もてくる。
そして最のページ。
付は、父が倒れる4の929だった。
《黒田誠治 断る。度目》
私はそのを何度も読んだ。
「しずさん」
隣にいたしずさんへノートを向けた。
「父は、黒田さんの何を度断ったんですか」
しずさんの顔が変わった。
しばらく黙っていた彼女は、やがてさな声で答えた。
「……簾分けです」
私はページから顔をげた。
黒田さんが父へ簾分けを求めていた。
しかも度ではない。
広告
「どうして父は断ったんですか」
しずさんは答えず、ノートの次のを指した。
そこには父の字で、もう文だけかれていた。
私はその文章を見た瞬、黒田さんがをた朝よりもい寒気を覚えた。
父が残した文は、わずか8文字だった。
《腕はある。が残らぬ》
私は何度も読み返した。
料理としての腕は認めている。
それでも簾を分けない。
その理由が「が残らない」ことだった。
しずさんによれば、黒田さんが最初に簾分けを求めたのは8だったという。父はそので断り、929にもう度頼まれたも認めなかった。
「そのは番さんが先代のお部へいこと入っておられました。てこられた、顔を真っ赤になさっていました」
「父は?」
「何もおっしゃいませんでした。ただ、その晩ずっとこのノートをいていらっしゃいました」
さらにページを戻ると、辞めた22のうち21の欄に《黒田君》とかれていた。
父はっていた。
若い料理が続かないことも。
沢渡さんや井さんのような、を支える能性があった材までていったことも。
辞めるたびに、父はここへ名をき続けていた。
「っていたなら、どうして止めなかったんでしょう」
わずからた。
しずさんはすぐには答えなかった。
「先代は、ご自分が板へてるうちは、自分がへ入ればいいとっていらしたのかもしれません」
広告
それが正しかったとは言えない。
結果として父は、問題を抱え込んだ。
黒田さんの腕を必とするあまり、が辞めるたびに別のを入れ、それでも何とかを回し続けた。
しかし5、父が膝を悪くし、へく回数を減らした頃から退職者が急増していた。父の目が板かられた分、黒田さんの力がきくなったのだ。
ノートの最には、929の記録のに、付のない数があった。
《綾乃を入れた。板を継がせるためではない》
私は息を止めた。
次のへ続いている。
《座敷と帳と板を、ののに置かぬため》
さらに、
《この帳面がいらぬにする》
とかれていた。
父が4に突然私を呼び戻した理由が、ようやく分かった。
料理のできない娘に板を任せるためではなかった。
板のにいるを経営へ入れるためだった。
私は泣かなかった。
むしろ悔しかった。
それならきているうちに言ってほしかった。
言、「を見ろ」と言ってくれれば、もっとく何かできたかもしれない。
けれど父自、32緒に働いた黒田さんを完全に切ることができなかったのだろう。
そのさごと引き受けるしかない。
私は翌から、辞めたたちへ話を掛け始めた。
最初に連絡した72歳の今井さんは、4まで20以洗いにいただった。
事を説し、「よければ週に数でも戻ってもらえませんか」と頼むと、話の向こうが静かになった。