"義母「家を売って弟の借金を返せ」夫に奪われかけた私の家" 第1話
夫のがきく振り抜かれた瞬、私は避けなかった。頬の奥まで響くような衝撃がり、体が横へ流れてたいフローリングに片をついた。のに鉄のようなが広がり、舌先で触れると唇の内側が切れているのが分かった。には、私の元から落ちたさな赤いしずくがつだけ残っていた。
「嫁のくせに、いつまで偉そうにしてるのよ。族が困ってるんだから、黙ってを売ればいいでしょう」
のから義母の清子の甲い声がってきた。夫の正也は荒い息を吐きながら私を見ろし、を振った自分自にも驚いているようだったが、謝ろうとはしなかった。それどころか、私がにをついたまま何も言わないのを見て、次第に自分の為を正当化するような表へ変わっていった。
「最初から素直に言うこと聞けば、こんなことにはならなかったんだよ」
私はゆっくり顔をげた。りでが真っになることも、恐怖で体が震えることもなかった。ただ、胸の奥にい置き続けてきた何かが、静かに音をてて崩れたような気がした。
正也はっている。私が学2の頃から空を習い、学代には県会で何度も位に入り、現も段の黒帯を持っていることを。結婚してからへ通う回数は減ったものの、週に度は体をかし、基本の稽古だけは欠かしていなかった。
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それでも私は、これまで正也に技を使ったことが度もなかった。夫婦喧嘩で腕をつかまれても、物を投げられても、相が素なら自分から力を使うべきではないとっていたからだ。幼い頃、師範だった父に「技を覚えたほど、使わずに済ませる責任がある」と教えられてきたこともきかった。
だが正也と清子は、私の沈黙をさだとっていた。
そして2はもうつ、らないことがあった。
私の線の先、リビングの井くに設置されたさな防犯カメラが、この数分の来事を音声とともに記録している。正也が私の腕をつかんだことも、清子が横から「言うことを聞かせなさい」と煽ったことも、そして夫の掌が私の頬を打った瞬もすべて残っていた。
そこへ至るまでには、わずか4しかかかっていなかった。
始まりは曜の午3だった。
私はフリーランスの翻訳として、自宅のを仕事にしている。そのも企業から依頼された契約の翻訳を終え、ようやくパソコンを閉じたところだった。窓から差し込む午の差しは柔らかく、蔵庫には昨買ったさなケーキもあり、残りの休をでのんびり過ごすつもりでいた。
正也は昼、「し寝る」と言って寝へ入ったままだった。最、休になるとやけにく寝ることが増え、会話も減っていたが、仕事が忙しいのだろうとく考えてはいなかった。
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結婚7目ともなれば、それぞれが同じので別のを過ごすことも珍しくないとっていたからだ。
そんな静けさを破るように、玄関のインターホンが鳴った。
モニターに映っていたのは清子だった。事の連絡はなく、のカーディガンにきな黒いバッグを持ち、カメラに向かって嫌そうな顔をしている。私は瞬居留守を使おうかとったが、で「嫁のくせに無した」と騒がれる方が面倒だとい、玄関へ向かった。
「お義母さん、こんにちは。急ですね。どうされたんですか?」
「どうされたも何もないわよ。事な話があるの。がるわよ」
清子は私の返事を待たず靴を脱ぎ、廊をんでいった。リビングに入ると、3掛けのソファの央へ当然のように座り、部を見回してから「まだ綺麗にしてるのね」と妙な言い方をした。
私はしいカップをして茶を入れたが、清子はもまなかった。テーブルに置かれたカップを横へ押し、両を膝に置いて私を正面から見た。
「実はね、隆が変なことになったの」
隆は正也より3歳の弟で、35歳になる。卒業から何度も職を変え、く続いた仕事はほとんどない。結婚もしておらず、活が苦しくなると実へ戻って清子を頼ることを繰り返していた。