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"680億円の取引を救った秘密の多言語" 第3話

季節は巡り、はもうすぐ終わろうとしていた。このまま何の跡も残さず、誰の記憶にも留まらず、ただ会社の片隅で静かに消えていくのだろうか。

そんな拭いきれない焦りと諦めが、私のの奥底にくすぶり続けていた。

そして、その「は」、予の形で、すぐ目のまで迫っていたのだった。

ある、突然の社内通達により、営業部に「億円の国際美術取引」という、バルハルテ社の歴史をも揺るがす社運をかけたプロジェクトがい込んできた。

その発端となったのは、欧州の名コレクターの族である「サンベルザイダ財団」が、アフリカやとした失われた文化財の共同展示と売買を国際規模で展するという壮な企画だった。

バルハルテ社はその本側における独占な契約代理業務を任されることになり、世界カ国以の文化関や資産たちとの緻密な交渉がめられることになったのだ。

契約の総額はおよそ億円。数字を聞くだけで目がくらみそうなほどの莫額だった。

その巨プロジェクトのプロジェクトリーダーを務めるのが、篠原織だった。

彼女はい黒髪をつにきれいに結いげ、いつだって背筋をピンとまっすぐに伸ばして歩く。その凛とした姿は、社内でも自然と々の目を引いた。

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切れの涼しげな瞳と、スーツが抜群に似う端正な顔ち。仕事の能力は極めて優秀だったが、本は自分の美貌に溺れることなく、周囲との調を丁寧に図りながら着実に成果をげていく優れた物だった。

だからこそ、彼女のまわりには社内の男たちが群がり、あのこので言い寄っていた。

営業部の鬼も、その群がる男のだった。

「しおりちゃん、こののフランス直輸入のワイン、どうだった?」

「あれ、部からのだったんですか……すみません。送り主の記載がなかったので、業者の違いかとって処分しちゃいました」

「はは、厳しいな、しおりちゃんは。でも、そこがまたいよねぇ」

「それより部……クアチア側の契約の翻訳、細かい修正事項がそのまま回ってきています。内容のご確認を」

「ああ、それか? ……まあ、にでも適当にやらせとけ。あいつ、普段は暇そうにしてるんだからさ」

私は、この巨プロジェクトチームのメンバーの員に加えられてはいたものの、それはあくまで名目のことであり、正式な戦力としてカウントされているわけではなかった。

契約文のファイリングの理、各国言語のインボイスの照、倉庫に届く荷物の確認など、いわゆる「誰もやりたがらない雑務」を雑用係として押し付けられたにすぎなかった。

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それでも、世界各国から集まる膨な資料に目を通し、その文字を追うだけは、息の詰まる会社活ので私にとって唯の救いだった。

アラビア語、ルーミア語、ツワナ語、ギリシャ語、スロベニア語。

には、ソマリア語や、現代ではほとんど使われない数民族の古エラム語の写本など、あまりにも特殊すぎる言語が含まれていた。

「こんなの、普通の通訳じゃ絶対に無理だろう……」

実際、織はプロジェクトのために入りに通訳を配していた。国際美術取引の豊かな経験を持ち、特にアフリカの数言語に特化した専たちも招かれていた。

だが、鬼の態度は最初から彼らを軽しきっていた。

「通訳なんて、ただの言葉のツールで分だろうが。最のAI翻訳の性能はすごいぞ。いギャラを払うなんての無駄無駄!」

「部、美術取引におけるあのレベルのニュアンスや文化背景は、械の翻訳では対応できません。専用語も現の文化背景も、の通訳がいなければ破綻します」

「文化、ねぇ……。現の苦労をらないやつに限って、そういう綺麗な理論を語るんだよな」

通訳の専スタッフたちが会議に席しても、鬼はほとんど彼らに目を向けようとしなかった。専用語の確認を頼まれても返事は曖昧で、むしろ彼は織との私な雑談の方にだった。

「しおりちゃんさ、今度の展示会のある? で祝杯をげようよ、ちょっといい隠れってるんだ」

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