"680億円の取引を救った秘密の多言語" 第1話
「通訳がいないなら、みんな英語でやればいいだけだ。相もビジネスなんだし、通じるさ」
営業部である鬼の酷で傲な声が、ぴんと張り詰めた会議の空気を切り裂いた。
その暴言の直、私は自分のデスクの端に置かれた類の束から線をし、目ので繰り広げられている異常な事態を静かに観察していた。通訳が突然、誰のこらず姿を消したのだ。
歴史な百億円もの巨な国際取引を目に控えたその会議は、まるで真ののように凍りついたまま、完全な沈黙に包まれていた。
会社の未来を背負うはずの幹部たちは斉に顔を伏せ、どうしようもない絶望と落胆の空気のにすっぽりと包み込まれている。私はただそのにぽつんとち尽くし、たいに元を固定されたかのようにけずにいた。
あ、あの、まさかこの瞬の絶望が、私の閉ざされたの歯をきく、そして劇に変えるきっかけになるなんて、このの私はまだる由もなかった。
私の名は誠理。齢は歳。
都内にある、世界な美術品を取り扱う国際な企業――「バルハルテ・グローバル・アート・リンクス」に勤務している。
私の社内での肩は「翻訳補助」という無難なものだったが、実際に任されている実態は、誰もやりたがらないような古びた納品台帳の解読や、倉庫の片隅での埃まみれの作業ばかりだった。
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正直に言って、会社のでの私は「いないもの」と同じような透扱いであった。社内の廊で誰かとすれ違っても、こちらから発した挨拶が返ってくることはまずない。司や同僚から呼ばれるは、名ではなくただ苗字を雑に呼ばれるか、あるいはで「あの気なやつ」と呼ばれるだけだった。
その理由はあまりにもで、誰の目にもらかだった。
なぜなら、私自が極度の対恐怖症を抱えているからだ。
「……おはようございます」
私はさく唇をわずかにけ、精杯の声を絞りして挨拶をしたつもりだったが、私の喉の奥から漏れる音はまるで々しい羽音のようにか細く、誰のにも届くことはなかった。
先輩社員が、私の真横を音もなく通り過ぎていく。彼はいつも社内のムードメーカーとしてるく振るう男だったが、今の私には瞥もくれず、スマートフォンをいじったまま通り過ぎていった。
――それでいい。いや、むしろその方がいいんだ。
私はのでそう呟いた。私はに期待しないまま、傷つかないことだけを盾にしてここまできてきたのだ。誰かに必とされたことなんて、これまでので度たりともなかったのだから。
に、学の頃の古びた記憶の断片が、脳裏の奥底からフラッシュバックするように蘇ってきた。
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当の教の黒板には、墨で力く「今のスピーチ」という文字がかれていた。
その、全徒やクラスメートのの演台につのは、でもない私の番だった。教壇のにった瞬、私の臓はドくんと嫌な音をてて激しくねがり、両が刻みに震えした。
教のクラスメートの線が斉に、まるで鋭い矢のように私に向けられた。私は極度の緊張で喉がひどく乾ききっているのに、がまるで接着剤で固められたようにかない。にしっかりと握りしめていたはずの原稿用が、や汗でぐしゃぐしゃと歪んでいく。
「……くん?」
配そうな女性の先の声が聞こえた。その直、クラスのどこかから、誰かがすっと笑を浮かべて笑い声を漏らした。その乾いた笑い声が、私の皮膚の内側をチクチクと針で刺すように焼き付けた。
「何あいつ? ロボットなの? 声せないの?」
子供たちの無邪気で、それゆえに底れず残酷な声が、私のの奥でこだました。
そのを境にして、私は「と話す」というの基本な為に対して、体が拒絶反応を起こすほどの烈なトラウマを持つようになってしまった。
――話すと、笑われる。言葉というものは、私を傷つけるための刃物にすぎない。
いつのにか、私はそうく信じ込み、殻のに閉じこもるようになっていた。