"「もう来なくていい」17歳の姉が偽名で働き続けた理由" 第4話
として働き始めた。
「姉ちゃん、それ駄目やろ」
「何が」
「何がって、全部やん」
「働いてるだけや」
「ばれたらどうするん」
「ばれへん」
「もし結核やったら?」
美代の表が張った。
「違うかもしれんやろ」
「でも、分からんやん」
「分からんから働いてる」
美代はそう言った。
「病気って決まってへんのに、病気のみたいに仕事もむとこも取られたんやで。なら、病気やない方に賭けてもええやろ」
澄子には言い返せなかった。
姉がしていることが危険なのは分かる。
でも、のが美代を職からし、寄宿舎からもしたことが正しかったのかと聞かれれば、澄子にも答えがなかった。
その、美代から故郷へ送られたは以よりなかった。
それでも母から届いたには、
《美代も澄子も無理をしないでください》
《正夫は学へけるだけで分だと言っています》
とかれていた。
美代はその文字を見て笑った。
「分なわけないやん」
そう言った直。
突然、激しく咳き込んだ。
度では終わらず、体を折るように何度も咳をした。
「姉ちゃん」
「糸くず吸っただけ」
「からそんな咳してた?」
「してへん」
「病院こう」
「うるさいな」
美代はちがった。
「もう帰る」
澄子が腕をつかむと、驚くほど細かった。
その夜から、澄子はほとんど眠れなくなった。
もし姉が本当に結核なら。
さな縫製所には、ほかにも若い娘がいる。
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同じ作業台。
同じ休憩。
同じ湯み。
姉の問題ではなくなる。
けれど会社へ言えば、美代はまた仕事を失う。
それだけではない。
今度は偽名で働いていたことまでられる。
数。
昼休みに久美子が澄子を探してきた。
「澄子、ちょっと」
顔が悪かった。
気のない倉庫脇へくと、久美子は声を落とした。
「変なことになった」
「何?」
「姉ちゃんが阪来る」
「誰の?」
「うちの姉ちゃん。幸子」
澄子の胸がたくなった。
実の祖母の状態が落ち着き、田幸子本が予定通り阪で働くことになったという。しかも森メリヤスからは、すでに「来から働けるなら来てほしい」という連絡が入っていた。
「森メリヤスへ?」
久美子が頷いた。
「もともと紹介してもろたところやから」
帳簿のには。
田幸子。
けれど。
その名を使って働いている美代と。
本物の田幸子が。
同じへ現れる。
「どうするん?」
久美子に聞かれ、澄子は答えられなかった。
そのの仕事が終わると、澄子は初めて森メリヤスまでを運んだ。
宅が並ぶ細いの奥に、階建てのさながあった。窓からミシンの音が漏れ、夕方になっても何かの女が残っている。
澄子はのからを見た。
美代がいた。
痩せた背を丸め。
ミシンを踏んでいる。
その胸元に。
い布札が縫いつけられていた。
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《田幸子》
澄子がそれを見つめていると、背からの男が声をかけた。
「誰かに用か?」
澄子は慌てて首を振った。
その、事務所の壁に貼られた枚のが目に入った。
《来10 全従業員胸部集団検診》
澄子はが止まった。
本物の幸子が来る。
そして同じ。
全員の胸部検診がある。
姉は。
どちらから先に。
逃げるつもりなのだろう。
翌の夜、澄子は美代の宿を訪ねた。畳の部にはさな箪笥と卓袱台しかなく、窓際に仕事着が枚干されていた。美代は布団に横になっていたが、澄子の顔を見ると「今は疲れた」と言いながら起きがった。
「幸子さん、来るんやって」
その言で、美代の顔から表が消えた。
「久美子から聞いたん?」
「うん」
「そう」
「それだけ?」
美代は卓袱台に線を落とした。
「そのに辞める」
「次はどこくん」
「探す」
「また別の名使うん?」
「使わへん」
「じゃあので何で辞めたか聞かれたら?」
美代は答えなかった。
澄子は壁際に置かれた湯みを見た。縁には茶渋がつき、横にはみかけのと咳止めらしき包みがある。
「それに、来検診あるやろ」
「誰から聞いた」
「貼り見た」
美代の眉がいた。
「見に来たん?」
「配やから」
「監しに来たんちゃうの」
「何でそんな言い方するん」
「全部、私が悪いみたいに言うからや」
美代は声を荒らげた。
その勢いのまま咳き込み、元をで押さえた。
澄子はすぐそばへ座った。
「あるんちゃう?」
「ない」
額へ触れるとかった。