みかん小説
本棚

"俺を脅し続けた同級生が、留守中の家で出会った男" 第8話

そこで俺はを止めた。

「あの、本当にありがとうございました」

「今さら何だよ」

「ちゃんと言ってなかったから」

犬塚は返事をしなかった。

俺は続けた。

「犬塚さんが困ったは、俺にも言ってください」

「おに?」

「はい」

「何ができる」

の俺なら、その言葉で黙っただろう。

無職。

喧嘩もい。

怖い相には逆らえない。

誰かを助けるどころか、自分で自分を助けることすらできなかった。

でも今はし違う。

「何ができるかは、その考えます」

犬塚がこちらを見る。

「友達なんだから」

「誰がおと友達だ」

即答だった。

「まだ認めないんですか」

「おと友達になった覚えはねえ」

を歩いていたメイが振り返った。

「犬塚、素直じゃないね」

「お嬢まで何を言うんですか」

「お兄さんのこと好きなくせに」

「違います」

「じゃあ何での仕事まで探したの?」

「それは――」

犬塚が珍しく言葉に詰まる。

俺は笑った。

「もういいですよ」

「何がだ」

「友達じゃなくても」

犬塚は眉を寄せた。

「何だよ、それ」

事ななのは変わらないから」

犬塚が固まった。

メイが笑う。

「犬塚、照れてる」

「照れてません」

赤いよ」

「寒いだけです」

だった。

俺たちは声をして笑った。

なら考えられなかった。

そして俺はこの、本気でっていた。

いつか犬塚が困ったなら、今度は俺が力になりたい。

それは恩返しだけではない。

誰かに助けてもらった経験があるからこそ、次は自分が誰かにを差し伸べられるになりたかった。

広告

へ戻ってからも、俺は度は本へ帰るようになった。

もちろんワンコも緒だ。

メイはしずつきくなり、会うたびに話し方も装も変わった。それでもワンコを見ると真っ先に駆け寄るところだけは変わらない。

犬塚も変わらない。

相変わらず怖い顔で、相変わらずメイにはがらない。

あるの帰国、俺は犬塚へ現のお菓子を渡した。

「例の物です」

犬塚は真剣な顔で受け取る。

「悪いな」

「今度こそメイちゃんぶといいですね」

「これは現限定だからな」

横からメイが箱をのぞく。

のと同じに見える」

犬塚の顔が固まる。

俺は目をそらした。

「何ですか」

「何か言え」

「パッケージが違います」

は?」

「……ほぼ同じです」

「役にたねえな、お

メイが声をげて笑った。

ワンコも何が楽しいのか尻尾を振っている。

俺も笑った。

昔の俺は、話が鳴るのが怖かった。

健からかもしれない。

また求されるかもしれない。

そううだけで体が固まった。

今は話が鳴れば、誰だろうとえる。

同僚かもしれない。

でできた友かもしれない。

本にいる犬塚かもしれないし、メイかもしれない。

俺の世界は、いつのにかずいぶん広くなっていた。

仕事も順調だった。

正社員になってから2には、さなプロジェクトを任されるようになった。

広告

しく赴任してきた若い社員が仕事に慣れず、「自分には無理かもしれません」と落ち込んでいた、俺は自分から声をかけた。

「俺も最初そうだったよ」

さんがですか?」

「もっとひどかった」

彼は驚いた。

俺は昔の会社をで辞めたことも、無職だったことも話した。

全部を隠す必はないとえるようになっていた。

「分からなかったら聞けばいい。失敗したら次どうするか考えればいいよ」

それはかつて俺自が言ってほしかった言葉だった。

犬塚が本当にきな問題へ巻き込まれ、俺の働く会社やで築いた脈がわぬ形で役につことになるのだが、それはまた別の話だ。

なくとも、あの

柱ので震える匹の犬を見つけたの俺には、今の活など像もできなかった。

仕事を失い。

両親を失い。

友達もいない。

昔の同級に怯えながら、親の遺産を削ってきていた。

俺はずっと、自分には何もないとっていた。

でも実際には違った。

最初に俺がしたことは、たったつだった。

に濡れていた犬へ「飯を買ってくる」と声をかけただけ。

そこからメイと会った。

犬塚と会った。

誰かに悩みを話すことを覚えた。

逃げることと、しい所へむことは違うのだとった。

健かられるためったのは、最初だけ見れば逃げだったのかもしれない。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: