みかん小説
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"消された母親の席" 第25話

「ママ……どうして泣いてるの?」

葵がさなで、私の頬を流れる粒の涙を拭ってくれた。

「痛いの? どこか痛いの?」

「ううん……痛くない、痛くないのよ、葵……」

私は葵のさな肩に顔を埋め、声をげて泣き続けた。 何も、何も閉じ込めてきた涙が、朝のに照らされた病に、止めどなくこぼれ落ちていった。

旬。

の澄み切ったが吹き抜ける、都の教員宅。 かつて私が暮らしていたアパートの部は、すべての具が運びされ、がらんどうになっていた。

畳のに残された、タンスの凹み。 柱に刻まれた、葵の成の印。歳の歳の歳の。 ペンで引かれた細い傷跡の数々が、の斜に照らされている。

修平は、慶学園を懲戒解雇された。 未成者略取誘拐、印公文偽造、業務横領の罪で起訴され、京拘置所で保釈も認められないまま、刑事裁判を待つとなっていた。学学園は記者会見をき、理事すべての役員が辞任を発表。名としての威信は完全にに堕ちた。

条綾は、の親族会議によって族から完全に除名された。 医療法の役職をすべて解任され、損害賠償請求訴訟を親族側から起こされているという。夫からも婚を突きつけられ、実子の昂くんの親権も止された。

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昂くんは現、児童相談所を通じて、退院した実母である佐久由紀さんの元で保護され、静かに活をて直す準備をめている。

そして、姑の静枝。 修平の逮捕と同に、彼女がんでいた実も、修平が勝に組んでいた額の教育ローンの担保として差し押さえられた。 親族から絶縁され、今は方の築造アパートで、わずかな国民だけを頼りに、誰ともを利かない孤独な々を送っていると、の噂で聞いた。

私は玄関のち、鍵をカウンターのに置いた。

の残務理担当者から、「葵ちゃんの初等部への入学は、学園側の贖罪として特別推薦枠で無償で受け入れる用がある」という打診のが届いていた。 だが、私はその類を瞥しただけで、ハサミを入れてゴミ箱へ捨てた。

偽善と見栄、血統差別と犯罪で塗り固められた名の記章など、葵の未来にはミリの価値もない。

「ママ、全部持ったよ」

玄関のから、ダッフルコートを着た葵が、さなリュックサックを背負って顔を覗かせた。 そのには、を綺麗に洗い落とし、油を差して磨きげた、父の形見の裁縫ばさみの箱が切そうに抱えられていた。

「ありがとう、葵。こうか」

私は度も振り返ることなく、アパートの鉄の扉を静かに引いた。

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カチャリ、と鍵が閉まる乾いた音が、の悪の終わりを告げていた。

旬。

京湾からの潮よく吹き抜ける、千葉の沿いにある公団団。 昭に建てられた階建ての団は、壁こそ古びていたが、向きのきな窓からは、朝から夕方までかい差しがたっぷりと注ぎ込んでいた。

賃は、以の教員宅の半分以。 私は所のさな仕て直しの専で、パートタイマーとして働き始めていた。 父から受け継いだ裁縫の腕は、所の母親たちので評判になり、制のサイズ直しやバッグの刺繍の依頼が、毎のようにい込んできていた。

「真奈美さん、お茶が入りましたよ」

ダイニングから、穏やかな声がした。 子を器用に操りながら、由紀さんが湯呑みをテーブルに並べてくれていた。 リハビリをねた彼女の顔には、奥の療養所にいた頃の面はなく、ふっくらとした頬に健康な赤みが差している。週末には、昂くんもこの部へ遊びに来て、葵と緒に宿題をするのが習慣になっていた。

「ありがとうございます、由紀さん。今、お弁当箱を詰めたところです」

卓の央には、鮮やかな卵焼き、タコさんウインナー、そして葵の好物の鶏の唐揚げが並んでいた。 今は、区の公の入学式だった。

濃紺の苦しい慶のスーツではない。 フリルがついた、るいサックスブルーのワンピース。私がかけて、父の裁縫ばさみを使って葵の背丈ぴったりに仕て直した、世界に着だけのれ着だ。

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