"消された母親の席" 第22話
私の横で、葵が私のをぎゅっと握り返した。 そのさなのぬくもりだけが、この狂気の空ので、唯の現実だった。
の絨毯に染み渡るシャンパンの匂いは、物のアルコール消毒液のようにを突いた。
砕け散ったバカラのグラスの破片が、井の巨なシャンデリアのを反射して、無数の鋭利な切先となって面に散らばっている。そので、条綾はドレスの裾を自らの吐瀉物と酒で汚したまま、つんいになって震えていた。
「嘘よ……こんなの、悪質なディープフェイクよ……! 私がそんなことを言うはずがないでしょう!」
綾の喉から絞りされた声は、もはや名サロンの主宰者のものではなかった。掠れ、ひび割れ、逃げを失った獣の鳴き声にかった。
だが、広を埋め尽くした百の保護者たちは、誰として彼女にを差し伸べようとはしなかった。
さっきまで「綾様」と傅き、価な産を競うように渡していた母親たちが、まるで致性の伝染病患者を見るような目で、歩、また歩と退りしていく。慶の常務理事は脂汗をハンカチで拭いながら、音響卓のにつ私から目を逸らし、逃げるように非常階段へとりで消えていった。
「真奈美……真奈美、待ってくれ!」
壇から転がり落ちるように駆け寄ってきた修平が、私のコートの裾にすがりつこうとした。
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だが、そのは空を切った。
藤先輩の図で背から踏み込んできたの私警察官が、修平の両腕を背へねじりげ、たい錠のラチェット音を響かせたからだ。
「せ! 僕は慶の専任教諭だぞ! 僕は被害者だ、全部この女に……条綾に命令されてやったことなんだ! 真奈美、おからも言ってくれ! 僕たちは族だろう! 葵のためにやったことなんだ!」
修平のからびしたのは、れな責任転嫁の言葉だけだった。 、私が信じ、支え、庭を守るためにをすすってきた夫の正体が、そこにあった。 保のためなら、も、妻も、子供すらも平然と切り捨てる、のない空虚な男。
私の元で、葵が私のをぎゅっと握りしめた。 葵のさな瞳は、に組み伏せられて醜悪に喚き散らす父親の姿を、滴の涙も流さずに、ただ静かに見つめていた。
「修平さん」
私は初めて、夫の目を見ろした。 りすら湧かなかった。ただ、どこまでもい侮蔑と、え切った静寂だけが私の胸を満たしていた。
「あなたは度だって、葵の父親だったことはないわ」
その、宴会の入りから、を引きずるようにしてみてくるがあった。 泰子伯母さんだった。
伯母の顔は涙と悔でぐしゃぐしゃに崩れていた。彼女は震える両で、あの黒い革のバッグから、百万円の札束が入った茶封筒を取りした。
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そして、にいつくばる綾の顔の横へ、鈍い音をてて叩きつけた。
「条さん……このお、お返しします!」
伯母の絶叫が、静まり返った広に霊した。
「うちの真奈美を……真奈美と葵ちゃんを、これ以あんたたちの勝な具にしないでちょうだい! 私は警察にって、あんたに脅されて偽証させられそうになったこと、全部喋ります! 円だって、あんたの汚いおなんかいらない!」
綾は封筒を見つめたまま、言葉を失ってカタカタと奥歯を鳴らした。
ホテルの警備員に両脇を抱えられ、裏の業務用エレベーターへと引きずられていく綾と修平の背に、フラッシュのいが無数に浴びせられた。藤先輩の配によってロビーに待していた聞社の司法担当記者たちが、斉にシャッターを切り始めたのだ。
慶のブランドも、条の威も、すべてが崩れった瞬だった。
*
丸の内警察署の取調をたとき、の空はみ始めていた。
の、たく澄み切った朝の空気が、徹夜の疲労でを持った私の肌を刺す。 ロビーのいベンチでは、藤先輩が温かいコップの緑茶を葵にませてくれていた。葵は私の姿を認めると、トレンチコートの裾に駆け寄り、私の腰に顔を埋めた。
「ママ……」
「葵、寒かったでしょう。もう丈夫よ。