"消された母親の席" 第20話
録音は、そこで途切れていた。
ヘッドフォンをしたとき、内は完全な沈黙に包まれていた。
涙は、滴もなかった。 私の胸の奥にあったしみや絶望は、すべて焼き尽くされ、極限まで精製された、絶対零度の殺だけが残っていた。
「全部……喋ったわね」
私はスマートフォンの画面をちげ、録音データをクラウドへ転送した。 藤先輩の事務所、そして文部科学省の記者クラブ、慶理事会の監事宛てのアドレスへ、斉に暗号化されたリンクを送信する。
計の針は、午半を指していた。
私はを急発させ、京へ向けてアクセルを底まで踏み込んだ。 帝国ホテル、午。 獄の幕をけるだった。
*
午分。 比の帝国ホテル本館は、がりのたい夜気のに、黄のを放って聳えっていた。
ロビーには、最級の着物や濃紺のフォーマルスーツにを包んだ、慶初等部のお受験ママたちと、その夫たちが溢れていた。 財界の物、名病院の院、世襲の政治。 誰もが選ばれた特権階級の余裕を漂わせ、シャンパングラスを片に談笑している。
階の宴会『富士の』。
慶初等部・推薦願者決起レセプション。 井からは巨なバカラのシャンデリアが輝き、壇には『伝統と誇り・慶学園の未来を担う庭の誓約』という文字の板が掲げられていた。
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壇の央にっていたのは、条綾だった。 今夜のために特別に仕てられたという、いミッドナイトブルーのイブニングドレス。 首元には、条に代々伝わるという粒のエメラルドのネックレスが鈍く輝いている。 その隣には、慶の専任教諭として胸を張り、完璧な笑みを浮かべた修平がっていた。
「……皆様、本はお忙しい、お集まりいただき誠にありがとうございます」
綾さんがマイクをに取り、優雅にをげると、会から割れんばかりの拍が沸き起こった。
「慶の教育の根底にあるのは、何よりも『庭の徳純潔』でございます。嘘や偽りのない、清廉な血筋と、親子のい絆。それこそが、がの百の伝統を支える礎であります。今度、推薦枠に選ばれたすべての子供たちが、その誇りきをくぐるにふさわしい庭環境であることを、幹事として、ここに誓約いたします」
拍はさらにきくなり、慶の理事が満げにワイングラスを掲げた。
修平が歩へて、恭しくをげた。
「現の教員といたしましても、理事、そして条幹事のお導きのもと、分の隙もない厳格な庭審査をってまいりました。が相沢におきましても、慶の精神に恥じぬよう、全全霊を捧げる覚悟でございます」
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夫婦の完璧な調。名の絶対な権威。 会の誰もが、の言葉に疑いを持たず、羨望の差しで見つめていた。
そのだった。
ギィ……と、宴会の方の、な扉が押しかれた。
会のざわめきが、波が引くように止まった。 数の線が斉に、入りへと向けられる。
そこにっていたのは、私だった。
とで裾が汚れた、いつもの物のトレンチコート。 ノーメイクのやつれきった顔に、ボサボサの髪。 華やかな夜会ので、私だけが、異界から迷い込んできた霊のように浮きがっていた。
だが、私の取りには、迷いはミリもなかった。 私のには、しっかりと握られた、さな温かいがあった。
「……ママ」
葵だった。 藤先輩が、条の別邸から児童相談所の職員とともに緊急保護し、このホテルので私に引き渡してくれた、私の切な娘。 葵は私のコートの裾をさなで握りしめながら、しっかりとを見据えていた。
壇の修平の顔から、瞬でが失われた。 「ま……真奈美……? なぜ、そこに……」
綾さんの完璧な笑顔が凍りつき、その切れの目が、憎悪に歪んだ。 彼女は素くマイクを切り替え、え切った、だが会全体に響き渡る声で警備員を呼んだ。
「警備の方! 何をしているの! 部者の侵入です! その緒定な女性は、庭内のトラブルで逆している狂よ! 直ちに子供を引きして、会のへつまみしなさい!」