"消された母親の席" 第16話
彼女の瞳孔が、極限まで見かれる。
先ほどまでの恐怖とはらかに違う、根源な戦慄と驚愕が、その痩せ衰えた顔を激しく歪めていた。
「あ……あ……」
由紀さんの震える指先が、シーツかられ、私の首のあざへと伸ばされた。 カサカサに乾いた指の腹が、私の皮膚を、まるで壊れ物に触れるように、恐る恐るなぞる。
ポロリと、女の目から粒の涙がこぼれ落ち、シーツに黒い染みを作った。
由紀さんは私の顔を、穴のあくほど凝した。 その唇が、激しく打ち震えながら、絞りすような絶叫の気音となって、え切った病の静寂を切り裂いた。
「……どうして……ここにいるの……?」
濁った瞳から、狂おしいほどのが溢れしていた。
「おの父親は……あの、おを連れて逃げたとき……度と京には戻らないと、私と約束したはずなのに……!」
階の病の空気は、氷のようにく淀んでいた。
の裸球が、チリチリと微かな放音をてながら、コンクリートの打ちっぱなしの壁に歪んだを落としている。
私の首を握る佐久由紀さんの指は、骨そのもののようにく、たかった。 乾燥してひび割れた彼女の皮膚が、私の「鳥のあざ」をなぞるたび、やすりで削られるような痛みがる。
「……私の父が、あなたと何を約束したというの……?」
私の喉から、掠れた声がこぼれ落ちた。
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由紀さんは激しく肩をさせ、落ち窪んだ目を吊りげた。 、誰ともまともな会話を許されず、薬物で考を濁らされてきた女の顔に、突如として恐ろしいほどの気が宿っていた。
「信吾さんよ……あなたの父親の信吾さん……。あのは、条の総帥だった私の父の、専属の仕て職だったのよ」
「父が……条の仕て……?」
「そうよ。慶の古い講堂の緞帳も、役員たちの式典用モーニングも、すべて信吾さんのが作業で縫いげていた……。だからあのは、条の内を、誰よりも裏側からっていたの」
由紀さんは息を継ぐのももどかしいように、胸元を掻きむしった。 い病院の寝巻きのから、肋骨の形が々しく浮きている。
「、私の乗っていたセダンが、箱根の旧でガードレールを突き破って崖に落ちた……。警察は、の夜のスピードのしすぎによる単独事故として処理したわ。でも、違ったのよ」
彼女の濁った瞳の奥で、黒い炎のような憎悪が揺らめいた。
「事故の夜、別邸のガレージで、私ののブレーキオイルのパイプに細をしたがいた。私は見ていたの。暗い防犯カメラの角で、油圧ジャッキを抱えて忍び込んできたを……。当、慶の若教員として学園に入り込んでいた、相沢修平よ」
臓が、ドクンと嫌なね方をした。
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「修平が……? そんな……あいつに、そんな度胸が……」
「あいつでできるわけがないでしょう!」
由紀さんの切り声が、狭い病に反響した。
「背にいたのは綾よ! 私が父から条グループの医療法の理事職を継ぐことが内定した直だった。本妻の娘である私を排除し、妻の連れ子である綾がすべてを奪い取るために、あの女は修平を唆したのよ! 慶での終雇用と、将来の理事のポストを餌にしてね!」
の奥で、ゴオオという血の流れる音が鳴り響く。
修平のあの、何事にも逆らわず、従順で、無害を装った笑顔。 「僕のような般教員は、条のような名の言う通りにくしかないんだ」と、毎晩の晩酌でこぼしていたあの自嘲。
すべてが、演技だったのか。 最初から、このおぞましい犯罪の共犯者として、あの男は条綾のとなっていていたのだ。
「事故の、私は奇跡に命を取り留めたけれど、半は完全に麻痺した……。も打って、識が戻るまでにヶかかったわ。でも、ようやく目を覚ましたとき、私の戸籍は『度の精神障害による成被見』として処理され、すべての資産と理事の権限は綾の名義にき換えられていた」
由紀さんのが、シーツを爪が割れるほどく握りしめた。
「事故処理を指揮したのは、慶の事務だった修平の父親……あんたのくなった舅よ。
警察の層部にを回し、目撃証言を握り潰し、私をこの『希望の』のへ叩き込んだ。