"消された母親の席" 第13話
「でも! このおを見せられたのよ!」
伯母はバッグのの札束を指差した。
「これは条からの『解決』だって……。あなたがサインをして、葵ちゃんを向こうのへ養子にせば、借は全部あちらで肩代わりして、警察汰にもしないって……。真奈美、お願いだからサインしてちょうだい! うちの族にまで取りてが来たら、息子たちの就職もおしまいなのよ! 私があなたを育ててあげた恩を、こんな形で仇で返す気かい……!」
育ててあげた恩。
その言葉が、私の胸を容赦なくえぐった。
父がんだ、親戚をたらい回しにされそうになった私を引き取り、をしてくれたのは確かにこのだった。 だが、その恩を質に取られ、今、私の腕から葵を引き剥がすための片棒を担がされている。
「伯母さん、よく聞いて」
私は伯母の震える両を、テーブル越しにく握りしめた。
「葵は、私の命なの。あのたちは葵をしてるんじゃない。自分たちの罪を隠すために、あの子を利用しようとしてるだけなの。この百万円も、修平が私の名を使って座から引きした、私の活費よ!」
「嘘をおっしゃい!」
背から、のような鋭い声が響いた。
振り返ると、通に条綾がっていた。 濡れたフォックスファーを肩に掛け、たい笑みを元に張り付かせている。
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その背には、類鞄を抱えた修平が、の消えた目で私を見ろしていた。
「みっともない真似はおやめなさい、真奈美さん」
綾さんは優雅に歩み寄ると、私の隣の席へ腰掛けた。 等なのりが、ルノアールの埃っぽい空気を瞬できする。
「お伯母様をこれ以困らせてどうするの? あなたが聞き分けよくサインをすれば、この百万はお伯母様に差しげるわ。あなたのこれまでの養育費の『清算』としてね。それで全員が救われるのよ」
修平が鞄から、黒い牛の印鑑を取りした。 父が私に遺し、私がずっと切に保管してきた、私の実印だった。
「真奈美、もう終わりにしよう」
修平は私の目を見ようともせず、事務な調で言った。
「公証の先が、向かいのホテルで待っている。ここでサインをすれば、おのこれまでの始末はすべて問にする。葵のことは忘れろ。それが、おのためでもあるんだ」
「修平……あなた、じゃないわ」
私の声が、りでく震えた。
「の事故って何? 御殿の『希望の』の佐久って、誰なのよ!」
修平の顔から、瞬で血の気が引いた。 持っていた牛の印鑑が、指先から滑り落ち、テーブルクロスのをコトコトと転がった。
綾さんの細い眉が、ピクリとねがった。 彼女の瞳の奥に、先ほどまでの嘲笑が消え、底れぬ暗い殺が浮かびがった。
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「……あなた、何を調べたの?」
「全部よ」私は嘘をついた。「あなたたちが何を隠して、何のために千万円を必としているのか、全部弁護士に話してきたわ。この類に判を押す気なんて、爪の先ほどもない!」
「真奈美……!」
修平がを伸ばし、私の腕を掴もうとした。
その瞬、私はテーブルのの、めきったアメリカンコーヒーのカップをひっつかんだ。
バシャッ!
黒褐の液体が、テーブルの央に広げられていた親権放棄の類のに、派にぶちまけられた。 いがコーヒーを吸い、活字がドロドロに滲んでいく。
「きゃっ……! 何するのよ、この狂が!」
綾さんが鳴をげてび退いた。 ファーの裾にび散った沫を、ハンカチで狂ったように拭い始める。
私はちがり、転がっていた自分の実印を素くひったくると、呆然と固まっている伯母の元に囁いた。
「伯母さん、目を覚まして。そのおを受け取ったら、伯母さんも共犯になるわよ」
「真奈美、待て!」
修平の号を背に浴びながら、私はルノアールの扉を蹴破るようにして押しけた。 ベルが激しく乱打される。
の宿。 私は傘も差さず、の波をかき分けながら、がむしゃらにった。
*
駅の公衆トイレの個に駆け込み、鍵を閉めた。 激しい悸で胸が張り裂けそうだった。 洗いの鏡に映った自分の顔は、とにまみれ、鬼のような形相をしていた。
ポケットので、スマートフォンが震えた。