"消された母親の席" 第7話
今無理にかせなくても、の夕方には公証役で期が設定されているの。修平が代理として続きをめるから、あなたのサインがなくても、実印とこの委任状さえあればどうにでもなるのよ」
綾さんは静枝のから桐の箱を奪い取り、自分のバーキンの奥くへと滑り込ませた。
「きましょう、お義母様。こんな埃っぽい部に居したら、喉を痛めてしまうわ」
「そうだねえ、綾さん。ので、お茶でもいただきましょう」
は私の横を通り抜け、玄関へと向かった。
ガチャリ、とチェーンロックがされ、い鉄のドアがく。
そして、側から鍵が差し込まれ、回されるたい属音が響いた。
カチャリ。
内側からドアノブを引いても、ビクともしなかった。から鍵をかけられたのだ。
「けて……! けてよ!」
私は鉄のドアを拳で叩き続けた。ドンドン、ドンドンと、鈍い音が廊に響く。
だが、返ってくるのは、ざかっていくの軽やかなヒールの音と、静枝の満げな笑い声だけだった。
やがて、アパートの敷内から、あの音のエンジン音が響き、を切り裂いてざかっていった。
静寂が、戻ってきた。
暗い部のに、私だけが取り残されていた。
*
どれほどのが流れただろうか。
私は暗のに座り込んでいた。気をつける気力も起きず、に散らばった葵のさな靴や、幼稚園の連絡帳を抱きしめたまま、ただ震えていた。
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のは、さらにまっていた。
窓ガラスを激しく叩く粒の音が、私の精神を削り取っていく。
すべてを奪われた。
葵の戸籍謄本も、実印も、願も。
警察に駆け込んでも、夫と姑が「庭内の親権の話しいだ」と言い逃れをすれば、民事介入で処理されるだろう。それどころか、綾さんの息のかかった慶の理事会がけば、私は本当に「精神異常者」として精神科へ隔されるかもしれない。
私には、何の力もない。
名の権力も、級官僚や弁護士のコネも、数千万円を用てる財力もない。ただの、教員の妻。方からてきて、親の遺産もなく、パートと内職でいつないできた無力な女だ。
「お父さん……」
私は暗ので、にくなった実の父親の名を呟いた。
父は、方都でさな仕てを営んでいた。頑固で、無で、涯度も私に甘い言葉をかけてくれたことはなかったが、私が修平との結婚を決めた、病から震えるで通の封筒を握らせてくれた。
『真奈美、これだけは絶対に放すな。修平のは、おがっているようなじゃない。いつかおがすべてを奪われそうになった、この鍵がおを救うはずだ』
そう言って渡された、さな古い真鍮の鍵。
私はフラフラとちがり、寝の押し入れの奥へと向かった。
袋の奥、誰の目にも触れないよう、古い着物の帯の芯に縫い込んであったさな巾着袋を取りす。
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からてきたのは、父の遺品である、本の古びた真鍮の鍵だった。
鍵のには、さな番号が刻まれている。
『井友 本支 貸庫 第408号』
父がぬ際、全財産を処分してまで借り続け、私に託した貸庫。
には何が入っているのか、私は今まで度も確かめたことがなかった。貧しい仕ての父が、貸庫に入れるような価な貴属を持っているはずもなく、私はただの形見分けの類だろうとい込み、触れることすら恐れていたのだ。
だが、修平の母親が言った言葉が、脳裏に霊する。
『あんたの父親が、条にどんな無礼を働いたか……』
父は、条をっていたのか?
修平と私がりうよりもずっとから、父はこの悪を予見していたというのか?
その、に放置されていた私のスマートフォンが、ブブッ、とく震えた。
液晶画面が、暗のに青く浮かびがる。
慶初等部のお受験サロン——「慶会」の幹事グループからの、斉送信通だった。
送信者は、条綾。
メッセージのタイトルは、『第回・直親子決起集会および格祈願の宴について』。
私はすがるようないで、画面をタップした。葵の居所に関するがかりが、何かつでも写り込んでいるかもしれない。