"消された母親の席" 第5話
葵のスーツの裏から見つかったあの領収と、母子帳を持って、弁護士のところへかなければならない。法な証拠を固め、修平を問い詰め、葵を取り戻さなければ。
だが、教員宅のアパートへ戻り、自のドアノブにをかけた瞬、私は全の血が凍りつくのをじた。
鍵が、いていた。
それどころか、玄関のには、見慣れない派なクリスタルが散りばめられたピンヒールと、仕ての良いのロングブーツが揃えられていた。
部の奥から、ガサゴソと乱暴に引きしをひっくり返す音と、甲い女の笑い声が聞こえてくる。
「——本当に、みすぼらしい部ね。よくこんな豚みたいな所で、あの子をも育てられたものだわ」
綾さんの声だった。
そして、それに応じる、聞き覚えのある老女の濁った声。
「全くだよ、綾さん。この真奈美という女はね、昔から気が利かないに、無駄に頑固でねえ。修平も苦労してきたのさ。今できっちりケリをつけて、あの子を条へお返ししなきゃ、修平の将来も慶での世もパーになるところだったよ」
修平の母——姑の静枝だった。
私は靴も脱がず、玄関からダイニングへと駆け込んだ。
「何をしているんですか……!」
私の叫び声に、部のにいたがゆっくりと振り返った。
部のは、凄惨な惨状だった。
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卓のの受験類はに散乱し、葵のダンスの引きしはすべて引き抜かれ、が畳のにぶちまけられていた。
部の央、私のパイプ子に優雅に腰掛けていたのは、キャメルのカシミヤコートを羽織った条綾だった。膝のには、エルメスのバーキン。その隣には、派なパーマをあてた姑の静枝が、腕組みをして勝ち誇ったような笑みを浮かべてっていた。
そして、静枝のには、私が番奥の箪笥に隠していた、桐の箱が握られていた。
に入っていたのは、葵の戸籍謄本、私の実印、そして慶初等部への正式な願願だった。
「あら、お帰りなさい。真奈美さん」
綾さんは、まるで自分ののリビングにいるかのように、滑らかなつきで袋を脱ぎながら言った。
「留守に勝にがらせてもらったわ。だって、あなたに鍵を返してちょうだいって頼んでも、どうせ聞き分けなく喚き散らすでしょう?」
「返してください……! それは葵の願です! 私の実印です!」
私がを伸ばして駆け寄ろうとすると、静枝が素くちはだかり、私の胸元を両で力任せに突きばした。
「寄るんじゃないよ、汚い!」
ドスン、と鈍い音がして、私は散乱した過問ののに尻餅をついた。
静枝は吐き捨てるように言った。
「の程をりなさい、真奈美さん。
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あんたのような貧乏育ちの女が、慶の保護者面接にられるわけがないだろう。学側に恥をかかせる気かい? この願はね、母親の欄をき直すんだよ」
「……き直す?」
私はにをついたまま、震える声で尋ねた。
綾さんが、喉の奥でフフッと笑った。
彼女はバーキンのから、枚の細い類を取りし、私の目ののへと放り投げた。
ヒラヒラとい落ちてきたのは、公証役の透かしが入った、『親権者変更および監護権放棄に関する』だった。
【甲】:相沢 真奈美 【乙】:条 綾
甲は、その親権にする女・葵の監護権の切を放棄し、乙を養親とする特別養子縁組の続きに異議なく同する。また、甲は今、葵に対し切の接触、面会、通信をわないことを誓約する。
活字で然と印刷された条文の数々が、酷なを放っていた。
「どういう……ことですか」
私の界が、りと恐怖で真っ赤に染まっていく。
「葵は、私の娘です! 私が、毎ご飯をべさせて、がたら晩病して、言葉を教えて、育ててきた娘です! あなたたちのオモチャじゃない!」
「あなたの娘?」
綾さんが、パイプ子からちがった。
コツ、コツと、鋭いヒールの音が畳を軋ませる。彼女は私の目のまで歩み寄ると、しゃがみ込み、私の元に顔をづけた。
質なフレグランスのりの奥から、腐ったのような悪が漂ってくる。
「、ご苦労様でした。無料のベビーシッターさん」