みかん小説
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"消された母親の席" 第4話

だが、もしも。

もしも、葵が最初から修平と綾さんの子供だったとしたら?

私は、夫と浮気相に産まれた子供を、それとらされずに、自分の命を削って育てさせられていたというのか?

そして今、子供が名へ入学する資格をに入れるための、ただの「体裁用の母親」「便利な無料の子守り」として使われているだけだとしたら——。

「う……ああっ……!」

喉の奥から、獣のような呻き声が漏れた。

爪がのひらにい込み、血が滲む。

私はがり、洗面台の蛇を捻って、氷のようなを顔に叩きつけた。鏡のに映る自分の顔は、のように青く、目のには黒々とした隈が張り付いていた。歳。かつてはもっと肌に艶があったはずだった。もっと笑っていたはずだった。

このままでは終わらせない。

事実を確かめなければならない。私のが、葵と過ごしたあの々が、すべてあのの描いたおぞましい台劇だったのかどうか、この目で突き止めなければ、私は狂ってしまう。

翌朝、私は葵を区の認保育園へ預けたで、慶学園の等部へと向かった。

たいっていた。傘を差していても、吹き付けるでコートの裾がぐっしょりと濡れる。

所で来者バッジを受け取り、杏の落ち葉が敷き詰められた並を歩く。

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舎は、赤レンガ造りのな歴史をじさせる建物だ。ここに通う徒たちはみな、選び抜かれた名の子供たちであり、修平のような般採用の教員は、彼らの「召使い」に過ぎないのだと、修平自がかつて自嘲気に語っていた。

職員の廊つと、の効いた内から、コピーが稼働する規則な音と、教員たちのく抑えられた談笑が漏れ聞こえていた。

私は呼吸をし、引き戸をノックした。

「失礼いたします」

のデスクに座っていた教務主任の男が、怪訝そうに鏡の奥の目を細めて私を見た。

「はい、どなたですか?」

本史科の、相沢修平の妻です。夫に急ぎの類を届けに参りました」

教務主任の眉が、ピクリといた。

彼は私の物のトレンチコートと、で濡れた毛先を瞥すると、事務で抑揚のない声をした。

「相沢先ですか。相沢先なら、本休暇を取得されていますが」

「……え?」

私の元が、さく揺れた。

休……ですか? 昨夜から、初等部との推薦枠の内部会議で、学に泊まり込みだと聞いていたのですが」

教務主任は、憐れむような、しかしどこか嘲るようなたい笑みを元に浮かべた。

「奥様、昨夜は全館警備体制に入っておりましたので、宿泊を伴うような内部会議などわれておりませんよ。

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それに、推薦枠の決定権は理事会にあります。教諭である相沢先が関与できる領域ではございません」

「そんな……では、修平は昨夜、どこに……」

「それは私どものげることではございません」

教務主任はそれ以話すのを拒むように、元のプリントの束に線を落とした。

「奥様、ここは教育の現です。個なご庭のトラブルを持ち込まれては困ります。相沢先にご用がおありなら、ご自宅でお話しいになってください」

完全な払いだった。

私はげ、逃げるように職員にした。

を歩く私の背に、通りかかった若い女性事務員のヒソヒソ声が突き刺さった。

『——あれ、相沢先のところの奥さんでしょう?』 『ええ、やっぱり噂通りね。慶会の幹事にすがりついて、相応なお受験を画策しているっていう……』 『ご主が誰と親密にしてるかもらないで、惨めよねえ』

嘲笑が、たい廊に反響していた。

っていたのだ。

この学たちは、修平が誰と、どんな関係を結んでいるのかを、全員がとうの昔にっていたのだ。

私だけがらなかった。

私だけが、夫を支え、庭を守り、名へのを拓くために尽くしている貞淑な妻のつもりで、その実、周囲の全員から「れな化」として指を差されていたのだ。

血の気が引き、界が滅する。

私は壁にをつきながら、必へと向かって歩いた。

に帰らなければ。

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