みかん小説
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"消された母親の席" 第3話

「お血が酷くて、子宮を全摘せざるを得なかった。もう目は望めない。だから、この子をで、命がけで育てよう」

そう言って私のを握りしめた夫は、あの、何を考えていたのか。

そして、私たちがにわたって奴隷のように仕え、理尽な命令のすべてに従い、のタイヤのまで掻きしてきた条綾という女は——。

あの女が、葵の、本当の母親だというのか?

吐き気が止まらなかった。

私はトイレに駆け込み、黄ばんだ便器にすがりついて胃液を吐きした。喉を焼く酸っぱい臭いと、るアンモニアの臭いが混ざりい、目から涙がボロボロとこぼれ落ちる。

「う、あ……っ、げほっ……!」

胃のには何も入っていなかった。今夜の私の夕は、葵が残したえ切ったパンの切れと、いインスタントのインスタントコーヒーだけだったからだ。

修平は今夜、「慶の推薦枠を巡る内部会議が引く」と言って、夕方からていた。

私は震えるでスラックスのポケットから自分のスマートフォンを取りし、修平の「本番号」を呼びした。

ツーツー、という無質な発信音が、鼓膜を針のように刺す。

回、回。

呼びし音が途切れ、カチャリと通話が繋がった。

「……もしもし。真奈美か?」

に微かなノイズが混ざっていた。静まり返った職員の音ではない。

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なジャズのベースライン、氷がクリスタルグラスに触れう乾いた音。

「修平……今、どこにいるの?」

「言っただろう、学だよ。来度の内部学と初等部からの推薦枠のすりわせだ。理事会の息のかかった教がうるさくてね。まだしばらく類仕事が残ってる」

修平の声は、呆れるほど滑らかだった。

その話の向こうで、クスクスというい女の忍び笑いが響いた。

布擦れの音。そして、甘くにかかった、聞き紛れるはずもないあの声が、受話器の奥から微かに漏れ聞こえてきた。

『——修平、次はメルローをけてちょうだい。それと、氷が溶けてるわ』

私の臓が、凍りついた。

さんの声だ。

初等部のお受験ママたちの頂点に君臨し、常に完璧な濃紺のスーツと連のパールをにまとい、の母親たちをたい目で見ろす、あの条綾の声。

「……修平、誰といるの?」

「誰って、学主任の柴田先だよ。疲れてるんじゃないか? くだらない詮索をしてる暇があったら、葵の面接シートのき直しをめておけよ。綾さんから預かっている推薦枠の枠組みを無駄にする気か」

「綾さんって……今、あなたの隣にいるのは誰なのよ!」

私の叫びは、プツリという無質な子音によってに遮断された。

画面を見ると、『通話終』の文字。

すぐに掛け直したが、呼びし音すら鳴らずに「波の届かない所にあるか、源が入っていないため……」

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というなアナウンスが流れるだけだった。源を切られたのだ。

計の針は、午を回っていた。

私はえ切った便座の蓋のに腰をろし、膝を抱えた。

で、これまでの景が、血のるような鮮さで蘇ってくる。

、葵が歳になった、修平は突然「葵を慶に入学させたい」と言いした。

分だと主張する私に、修平は珍しく声を荒らげた。

「僕の勤め先だからこそわかるんだ。慶のブランドがあれば、葵の将来は約束される。の綾さんが、僕たちのを認めて、特別に推薦の面倒を見てくれると言ってくださっているんだぞ」

そこから、私たちの獄のような「お受験活」が始まった。

さんの主催する「慶会」という私設サロンへの加入。万円の会費。

さんの男である昂くんの送迎、買いしの荷物持ち、サロンの会設営から片付けまで、すべて私が無償で引き受けさせられた。の裕福な母親たちは、仕ての良いワンピースを着て優雅にお茶をみながら、汗だくでパイプ子を並べる私を「修平先の奥様は、本当によく気が利くこと」と嘲笑交じりに眺めていた。

それでも耐えられたのは、修平が「葵のためだ」と繰り返したからだ。

葵が、慶の紺の制を着て、誇らしそうに笑う見ていたからだ。

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