"暗証番号0427――元夫が残した24回の送金" 第1話
3使えなかったカード
10最の曜、朝倉美は駅のATMで、財布のいちばん奥から古いキャッシュカードを取りした。
座の残がいくらあるかはらない。数万円あれば、今の賃4万8000円と米だけは買える。けれど、そのカードを械に入れるまで、美には3かかった。
財布には1000円札が1枚と、銭が7枚入っていた。朝から求票を持って歩き回り、代を惜しんで2駅分歩いたため、靴のでのかかとが擦れている。画面のにっても、美はカードを持ったまま3度呼吸しなければならなかった。
カードが吸い込まれた直、画面がく切り替わった。暗証番号を押す画面にはまず、「このカードはお取り扱いできません。窓へお申しください」と表示される。背には料の列ができていた。美は吐きされたカードをつかみ、誰とも目をわせずにATMをれた。
通帳も印鑑も元にはない。カードに刻まれている名義は、婚の「瀬美」のままだった。
窓で事を話すと、30代半ばほどの女性員がカードと運転免許証を見比べた。免許証の表には瀬、裏面には婚に戻した朝倉の姓が記載されている。員は端末に何かを入力し、急に指を止めた。
「々お待ちいただけますか」
奥へ消えた員は、支らしい男性と緒に戻ってきた。
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とも声を落とし、もう度カード番号を確認したあと、女性員が美の顔をまっすぐ見た。
「奥様、別へどうぞ」
その呼び方に、美の胸がく縮んだ。
「違います。私はもう、瀬の妻ではありません」
「失礼いたしました。現のお名は朝倉様ですね。ただ、このではお話しできないことがございます」
案内されたのは、窓のないさな応接だった。いの机と向かいわせの子が4脚あり、空調の音だけがく響いている。支は宮原、女性員は佐々と名乗った。
机の央には、い封筒が置かれていた。表にかれた数字を見た瞬、美の呼吸が止まりそうになった。
――0427。
3の夜、婚届に署名した美へ、夫の瀬優馬は玄関先でそのカードを差しした。
そのの夕は、鯖の噌煮と根の煮物だった。優馬は箸をつけず、仕事用の鞄から記入済みの婚届をした。浮気を疑って問い詰めても、借のことで迷惑をかけたくないのかと尋ねても、「もう決めた」の点張りだった。話しいにもならないまま、美は震えるで自分の欄を埋めた。
「これで最だ。暗証番号は0427」
「どういう?」
「もう俺に関わるな」
優馬は理由を説しなかった。9の結婚活を終わらせた男は、美が泣いているのを見ても、玄関の扉を閉めただけだった。
閉まる直、優馬のが扉の縁をく握っていた。くなった指だけは覚えている。それでも美には、引き止める言葉を待っているようには見えなかった。残ったのは、卓でえた鯖と、のひらに押しつけられたいカードだけだった。
使えば、あの言葉に負ける気がした。捨てれば、本当に何も残らなくなる気がした。そのため美は3、カードを財布からしては戻し、今まで度もATMに入れなかった。
佐々が封筒にを添えた。
「こちらは、ある方から朝倉様へお預かりした連絡類です。ご本確認のあとで、指定された方へ連絡することになっていました」
封筒の央には、数字に続いて、見覚えのある器用な文字が並んでいた。
『0427を覚えていてくれた美へ』