"24年育てた息子の結婚式に、私の席はなかった" 第1話
親族席から消された母
「親族席には実母が座るから、母さんは来ないで」
結婚式の夜、優斗は卓に置いた私の招待状を裏返して言った。私は黒留袖にわせる帯締めをにしたまま、息子を見た。の着付けは朝7半。予約を取った美容院のカードが、招待状のからしだけのぞいていた。
「来ないでって、親族紹介にないということ?」
「式も披宴も。途から来られても、説が難しくなるから」
優斗は子に浅く腰をかけ、腕計に目を落とした。に置いてあった礼装用の物を取りに寄っただけのつもりらしい。膝のには、私がそろえておいた袋が載っている。
「になって困るより、先に言っておいたほうがいいとって」
私は帯締めを畳のへ置き、隣にいる夫の彦を見た。テレビの音はさい。こちらの会話が聞こえない距ではなかったが、夫は画面を向いたまま、湯呑みを持ちげた。
優斗は25歳になり、初期研修医として働いている。医学部の6を終えた、姿の写真を送ってくれた。その写真は今も器棚に飾ってある。1歳の彼を引き取ってから24、私が育てた息子だった。
私が産んだ子ではないことは、優斗もっている。夫が別の女性とのにもうけた子を、私は養子として迎えた。だからこそ、1に実母と再会したと聞いたも、会うなとは言わなかった。
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ただ、再会した母親に席を譲れば、自分の席そのものがなくなるとは考えていなかった。
「也さんを呼ぶのは、っていたわ。でも、私がないという話は聞いていない」
「母親が2いたら、向こうの親戚だって戸惑うだろ。こういうは、分かりやすくしたいんだよ」
野也。そのの名をにしただけ、優斗は私の顔を確かめた。反対されれば説得する準備はしてきたのだろう。けれど、結婚式を楽しみにしていた私に何と謝るかは、考えていないようだった。
「彩乃さんも、私に来ないでほしいと言っているの?」
「彩乃は関係ない。俺が決めたことだから」
1ヶに入籍した妻をかばう声には、迷いがなかった。私はしうつむき、爪の先で帯締めのをそろえた。何度直しても、同じ数本だけが横へ逃げた。
「あなた自が、私には席してほしくないのね」
「そういう言い方をしないでよ。今回だけ、気を遣ってくれればいいんだ」
優斗は困った顔で笑った。それが、私の返事を待っている顔だった。これまでなら私がため息をつき、それでも最はうなずく。彼には、その先まで見えているのだとった。
喉の奥が痛み、返事をするまでにしがかかった。
「そう。じゃあ最までその考えでいてね」
優斗は肩の力を抜き、袋を持ってちがった。
「分かってくれてよかった。
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、朝いからくね」
玄関の鍵が閉まってから、彦が部に入ってきた。私のに広げた黒留袖を見て、まず言ったのは息子をたしなめる言葉ではなかった。
「事なのに、揉めなくてよかったじゃないか」
「あなたは聞いていたのね」
「本の式だ。本に任せてやれよ」
私は返事をせず、美容院へ話をかけた。閉ににい、事は告げず、着付けの予約を取り消した。受話の向こうで「またの会に」と言われた、息を吸う所を見失いそうになった。
話を切ると、夫が眉を寄せた。
「そこまでしなくても」
「は着ないから」
留袖をたとうへ戻した。袖をねる順番を違え、いったん広げ直す。元を見ていれば、器棚の姿を見ずに済んだ。
そのあと、優斗にいメッセージを送った。
《確認です。はあなたの希望どおり、式にも披宴にも席しません。私の判断で欠席した、ということにはしないでね》
画面に既読がついた。返事は、留袖の紐を結び終わるよりかった。
《うん、それで丈夫。分かってくれてありがとう》
私はその画面を保し、の招待状と緒に、元へ残した。