"院長が頭を下げた看護師の妻" 第6話
瓦礫のにいた
「園部蔵。ここにかれている患者は、私です」
院がをこちらへ向けた。患者氏名の欄に、今聞いた名があった。宅はを乗りしかけ、机の端に置いたを止めた。
「当48歳で、元の病院に勤めていました。あの震で、倒壊した建物のに閉じ込められたんです」
会議の方で子が鳴った。皆が奈々を見てから、院へ線を戻した。俺は資料を持っていたをろした。
「救されたのは、およそ48でした」
院は数字をにした、しを置いた。あの暗がりでは、腕計を見ることもできなかったという。壁の隙から音がすると声をしたが、やがて喉が痛み、呼びかけに応えるだけで精いっぱいになった。
「消防の方たちが障害物を取り除いてくれました。のかりが差したも、するより先に、体をかされるのが怖かったのを覚えています」
院の指が、から自分の膝へ移った。
救助隊から医療チームへ状態が伝えられ、搬の準備がんだ。へ運びされた院の顔のそばに、膝をついた護師がいた。じんでまぶたをけにくく、相の顔はよく見えなかった。
「園部さん、聞こえますか。護師の相沢です」
その声だけは覚えていると、院は言った。
奈々は返事を待ちながら呼吸や顔を確かめ、そばの医師に伝えていた。
広告
担架を受け渡すには側に回り、何もので体が持ちがるも、院の顔から目をさなかった。
「揺れます。そばにいますからね」
院は持ちげかけたで、彼女の袖をつかんだという。奈々はそのを無理にさず、担架の横を歩いた。次の担当者へ渡すまで、何をするのか、今どこへ向かうのかを伝え続けた。
俺は救急処置で、藤堂のに添えられていた妻のをいした。あの声を聞いていた患者が、今、俺たちのにっている。
「佐藤さんは当27歳、護師になって6でした。必な研修を受け、DMATの員として派遣されていた。そのことは、からりました」
院はもう1枚のを広げた。奈々から借りた、個名を除いた救護活報告の控えだという。救護所全体で対応した数は100を超えていた。
「医師も護師も、搬送を支えた方も、それぞれいっぱいだったはずです。私はそのの患者でした。ですが、相沢さんに呼びかけられている、自分が取り残されるとはわなかった」
報告を置くと、院は演台かられた。奈々の席へ向き直り、背筋を伸ばした。
「あの、あなたにつないでもらった命で、私は今も医師をしています。改めて、ありがとうございます」
院がをげた。奈々が子を引いてちがり、そのでをげ返した。
広告
宅のがわずかにいたが、言葉はなかった。
「こちらで先のお顔を拝見できて、私もうれしかったです」
奈々の声はしかすれていた。院は頷き、顔をげた。
「ですから、私は佐藤さんをご主の奥さんとして初めてったわけではありません。仕事をする姿を、患者の側から見ていました」
俺は奈々を見た。誰の隣にたせれば派に見えるかなどと、考える余もなかった。妻は俺と会うはるかから、自分ので患者のそばにっていた。
宅がの席で姿勢を変えた。奈々の方を向いたものの、彼女が目をげると俯いた。俺にも、今すぐ胸を張って夫を名乗ることはできなかった。
久世先が奈々に向かって会釈した。方からさく拍が起こり、隣の席へ広がった。奈々は困ったように両をそろえたが、桜庭師に子を引かれ、ゆっくり座った。
院が資料を封筒へ戻した。若い医師が、当の活は表彰されたのかと尋ねた。
「個での表彰のお話はありました。ご本から、ここまではお伝えしてよいと伺っています」
院は奈々の頷きを確かめた。
「ただ、佐藤さんは、お受けになりませんでした」