"院長が頭を下げた看護師の妻" 第5話
古い搬送記録
症例検討会は、各部署が勤務を調できるの夕方にかれた。救急の担当者に加え、科、麻酔科、集治療部の医師と護師が集まっていた。
会議の方には、当の経過を映すスクリーンがある。俺は元の資料をそろえながら、方の席に座る奈々を見た。隣には桜庭師がいた。奈々は俺と目がうと、さく頷いた。
宅はの方に座り、腕を組んでいた。園部院が入ってくると姿勢を直し、自分の資料をいた。
「まず、搬送からの経過をお願いします」
司会に促され、俺はった。藤堂の状態と治療の流れを、必な範囲で説した。術も集治療が続いていることを共し、救急処置で起きた変化へ話を戻した。
自分が作った資料には、くき直せる箇所があった。患者の状態を確認し、科へ引き継いだ。それだけなら、迷いなくんだ診療に見える。
俺はスクリーンを見てから、座っているたちへ顔を向けた。
「急変、護師からの最初の報告を、私は度で受け取れていません。患者さんのご族への連絡や、入からの呼びかけにも注を向けていました」
をめくる音が止まった。俺は続きを話した。
「佐藤奈々さんが反応の変化をもう度、順番に伝えてくれました。護側の役割が理され、こちらへ必な報告が届くようになったことで、判断と処置に集できました」
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宅がこちらを見た。俺は線をさなかった。
「自分がすべて把握して指示できていたように、この経過を説することはできません」
喉が渇いていた。をむと、桜庭師が護側からの経過を説した。奈々だけでなく、連絡や記録、移送を担当したの仕事がつながっていった。
久世先が術側の確認を終え、俺に言った。
「届いた報に、変化の順番がありました。こちらが何を先に確かめるか、その判断に使えました」
俺は頷き、資料にき込んだ。のきが、発表を始めるより落ち着いていた。
質疑ので、若い医師が奈々に尋ねた。
「あの、どうしてあんなに落ち着いてけたんですか」
奈々はし目を伏せ、それからった。
「落ち着いていたわけではありません。自分が何を見たか、誰に伝えたかを、確かめるようにしていました。私も、ほかの方の報告がなければけませんでした」
「最初から、全部分かっていたわけじゃないんですか」
「分からないことがあるから、確認します」
俺はペンを止めた。奈々は誰かの失敗を指摘したわけではない。それでも、自分の分からないことをにするのが遅れた俺には、その言葉が痛かった。
症例の話が区切りつくと、園部院がちがった。63歳の院が会議のへると、方のたちも顔をげた。
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「ここからし、私自の経験をお話しさせてください」
院は奈々を見た。奈々が頷くのを待ってから、机のにい封筒を置いた。
「ご本から、話してよい範囲を伺っています。その範囲を越えることはしません」
封筒のは、何度もけたためかし裂けていた。院はから折り畳まれたと、古い報告の写しを取りした。を広げる指が、端の折り目を丁寧に押さえた。
「今回の対応を、昔のりいへの特別扱いだと受け取った方もいるかもしれません」
宅の背が子かられた。院は誰かを見つめることなく、会議全体へ話した。
「ですが、私が佐藤さんを信頼するのには、仕事のでった理由があります」
奈々は膝のにを置いていた。俺は妻の顔を見たが、言葉の続きを先に読もうとするのをやめ、院へ向き直った。
「15の、きな震ののことです」
院がを持ちげた。古い搬送記録の写しだった。今、院内で使う様式とは違い、いくつもの欄がきで埋められている。
「これは、私が元に残してきたものです。あの、佐藤さんはまだ相沢というお名でした」
院は演台をしれ、俺たちにが見える位置へった。宅が持っていたペンを机に置いた。
「ここに記されている患者のことから、お話しします」
院の指が、搬送票の患者名の欄で止まった。