"院長が頭を下げた看護師の妻" 第3話
奥さん、ではなく
翌朝、医局で宅が昨の話をしていた。窓際に若い医師がち、コーヒーを持ったままを傾けている。
「あの院がをげたんだよ。佐藤の奥さんに」
俺が入ると、宅は子をこちらへ向けた。
「結局、昔からのりいなんだろ。そうじゃなきゃ、あんなに任せないよな」
「それは、まだ聞いてない」
「まあ、に認められてるなら話がいよ。俺たちだって、やりやすくなる」
宅はコップを机に置いた。昨、処置で言葉を失っていた男が、もう妻の働きを自分の分かる形に収めようとしていた。
俺がをくに、戸から声がした。
「宅先。昨の佐藤さんの観察については、確認されましたか」
桜庭律子師だった。には症例の振り返りに使う資料を持っている。救急側の記録と、医師側の経過を照するために来たのだという。
「観察?」
「どの点で反応が変わり、何を先方へ報告したかです」
宅は俺を見た。俺は子を引き、桜庭師に座ってもらった。若い医師も自分のカップを端へ寄せた。
桜庭師は必な記録を示した。呼びかけへの反応がくなったこと。その変化を俺へ報告したこと。科への連絡、移送の確認、術での引き継ぎが、担当者の名と緒に残っている。
俺には、その欄を埋めたたちの声が聞こえる気がした。
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宅の指は、奈々の名のくで止まった。
「きがよかったのは分かりますよ。ただ、院があそこまで信頼してるっていうのは」
「連絡役を任せられると判断したのは、私も同じです」
桜庭師は宅の顔を見た。
「応援に来るに、これまでの経験を確認しています。こちらの設備も、ご本が事に確かめていました。院のおりいだから任せたわけではありません」
宅はを閉じた。机ののコップを持ちげたが、まずに戻した。
俺は記録を自分の方へ寄せた。
「最初の報告を受けたのは俺だ。ほかの声に気を取られて、聞き直したところがある。奈々は変化の順番をもう度伝えてくれた。それで、俺は判断に必な報をそろえられた」
若い医師が顔をげた。俺は宅ではなく、その医師にも聞こえるように続けた。
「昨、現をつないでくれた護師の仕事を、りいだからの言で終わらせたくない」
「そんなつもりで言ったんじゃないよ」
宅は笑おうとしたが、誰も笑わなかった。以なら、俺はそこで話を変えていただろう。今は資料をいたまま、必な確認を続けた。
打ちわせが終わり、廊で桜庭師を呼び止めた。
「昨は、ありがとうございました」
「佐藤さんにもお伝えください。先から直接」
俺が頷くと、桜庭師はしだけ表を緩めた。
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「ご本にも、自分が何をしたか、聞いてあげてください」
その言葉を持ったまま救急へくと、奈々は患者の掛け物をえていた。配の男性が何か言うたびに、を止めて顔を向ける。話を聞き終えてから、そばの護師へく伝えていた。
俺は声をかけずに待った。奈々がれたところで、術の藤堂の経過を共した。それから、さっきの打ちわせについて話した。
「君の報告があったからけたと、俺からも伝えた」
奈々は俺を見た。ぶとっていたのに、すぐには笑わなかった。
「そうですか。ありがとうございます」
妻の返事を聞いて、俺は自分が何を待っていたのかに気づいた。正しいことを度言っただけで、昨までのことも帳消しになるような顔をしてほしかったのだ。
「仕事が終わったら、し話せるか」
「はい。今は夕方には帰れるといます」
そこへ園部院が来た。俺が挨拶すると、院は頷き、奈々の方へ体を向けた。周囲の通を避けるよう壁際へ寄り、声を落とした。
「相沢さん。あののことを、話してもかまいませんか」
奈々の旧姓だった。俺もっている名なのに、院のからると、らないの入のように聞こえた。