"毒を運ばされていた私" 第7話
私はちがり、夕が迫る団を見げた。 階建ての巨なコンクリートの塊が、何百もの活をみ込みながら、沈黙を守っている。 暗い窓のあちこちに、ぽつり、ぽつりとオレンジの灯が灯り始めていた。
あの常の灯の裏側で、どれだけの悪が、慎ましやかな仮面を被って息を潜めているのか。
私は度団をるふりをして、敷のコインパーキングの物にを潜めた。 やがて夜の帳がり、たい夜が団の隙を吹き抜けていく。 刻は午を回っていた。 たちの音が途絶え、共用廊の暗い蛍灯だけが、チカチカと気に瞬いている。
私はフードをく被り、音を忍ばせて、再びあの造棟の階段をがった。 目指すのは、清原さんの部――〇号ではない。
清原さんの真、階の空き部の脇を通り抜け、裏の配管スペースへと回った。
築の団は、壁沿いに太い管とガス管が剥きしで通っている。 そして、階の部の台所のには、かつて集プロパンガスの元栓を点検するために使われていた、部からの点検がしていた。 昼、清原さんの部を片付けていた、流し台の真の板が、自然に浮いていたのをいしたのだ。
むらにを潜め、〇号の台所にある、赤錆びた鉄の扉にをかけた。
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京錠がかけられていたはずの掛けは、の腐で崩れ落ちていた。
ギィ、と微かな軋み音をてて鉄扉をく。 懐灯のを最限に絞り、暗い配管の隙を照らした。
湿ったと、腐敗したヘドロの臭いがを突く。 いつくばるようにしてにを滑り込ませると、に台所の板の裏側が見えた。 排の塩ビパイプが何本も交差している。
その、排管がコンクリートの基礎を貫通する暗がり。 パイプを固定する鉄のバンドの裏側に、何かが自然に括り付けられていた。
黒いビニールテープが、何にも巻きつけられた塊。
胸が激しく鳴った。 を乗りし、指先を伸ばす。 指先がたいビニールに触れた。力を込めて引き剥がすと、バリバリとテープが裂け、みのある方形の物体が私の掌に落ちてきた。
埃と油にまみれた、古いビスケットの空き缶だった。
いして鉄扉を閉め、建物のに隠れて膝ので缶を抱えた。 震える指で、錆びついた缶の蓋をこじける。
カパッ、と鈍い音がして蓋がれた。
懐灯のいが、缶の底を照らしす。
そこに入っていたのは、目のものではなかった。
まず目にび込んできたのは、本の印鑑だった。 黒牛の角で作られた、ずっしりとい実印。 側面に刻まれた文字をに透かす。
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『相馬』
、部から忽然と消え失せ、親族への遺産相続続きを能にさせたと自治会で噂されていた、相馬栄造の実印だった。
そして、そのには、何枚もの類が折りたたまれてねられていた。 すべて、黄ばんだ『都営宅入居承継届』の複写。 公団の賃貸借契約を、同居や親族が引き継ぐための公な申請だ。
私は類の番のを広げた。
名義の欄には、相馬栄造の名。 そして――『たな承継』の欄には、几帳面な、見覚えのある文字が並んでいた。
『続柄:内縁の妻 氏名:清原 フミ』
息が止まりそうになった。
内縁の妻? 相馬さんと清原さんが? そんな話、の介護活ので度も聞いたことがなかった。 相馬さんは涯独で、寄りがないからこそ、は部が引き払われたはずだ。 なぜ、清原フミが承継として申請を作成していたのか。
類をさらにめくると、相馬さんのものだけではなかった。
に全でんだ、〇号の男性の名。 に自宅で倒れて孤独した、〇号の齢女性の名。
そこには、この団で過数のに「孤独」していった、寄りのないたちの名が記された承継届が、何枚も束ねられていた。 すべての承継の欄に、清原フミの名が記されている。 あるいは、彼女がに入れたとおぼしき、の名義の通帳のコピーが。
清原フミは、偶然隣を取っていたのではない。