"失踪した妻を道の駅で見つけた――「来ないで」と怯えた理由" 第1話
「おのような頼りない男に、いつまでもうちの孫を預けておくのはで仕方がない。お盆くらい、顔を見せに来なさい」
話の向こうから響く義父・吉兼宗郎の声に、私は何も言い返さなかった。の夕方、窓のでは蝉がを塞ぎたくなるほど鳴いているのに、私のいるリビングだけはの底に沈んだようにえていた。
「分かりました。の午に、杏奈を連れて伺います」
「当たりだ。途で寄りなどするなよ。杏奈に何かあったら、おに責任が取れるのか」
返事を待たず、話は切れた。
私はしばらくスマートフォンを握ったままけなかった。義父の言葉に傷ついたからではない。そんな扱いには、結婚した頃から慣れている。
吉兼は岐阜で品卸や物流、産まで広く事業を展してきた族だった。宗郎は元の経済団体でも顔が利き、男の武志は数から核会社の社を務めている。
彼らにとって、私は最初から「格の違う男」だった。
結婚の挨拶へった、宗郎は私の勤務先や収、実の資産まで細かく聞いたあと、骨にため息をついた。
「結はもうし、というものを考えて相を選ぶ娘だとっていた」
隣にいた武志も笑った。
「会社員じゃ、うちとは世界が違いますからね」
それでも私は耐えられた。
広告
妻の結が、いつも私の側にいてくれたからだ。
「私が結婚するのは吉兼じゃないもの。誠さんと結婚するの」
帰りの幹線でそう言い、私のを握ってくれた結の顔を、私は今でもはっきり覚えている。
柄も財産も関係なく、私たちはごく普通の庭を作った。
朝は私がゴミをし、結が弁当を作る。
休には3で所の公園へき、娘の杏奈が滑り台を何度も滑るのを、ベンチに座って眺めた。
夜、杏奈が寝たあとには、いワインをしだけみながらテレビを見る。
そんな何でもない活を、結はとても事にしていた。
だからこそ。
半のあの夜に起きたことを、私は今でも理解できないでいる。
のたい夜だった。
仕事を終え、午9くにマンションへ帰った私は、玄関の扉をけた瞬に違を覚えた。
いつもなら台所から夕の匂いがする。
リビングにはさな照がついていて、結か杏奈の声が聞こえる。
そのは真っ暗だった。
「結?」
返事はない。
靴を脱ぐのも忘れ、リビングの照をつけた。
ダイニングテーブルの央に、い便箋が1枚だけ置かれていた。
封筒にも入っていない。
だけだった。
《に好きなができました。》
《あなたと杏奈には申し訳ありません。》
《もう戻りません。》
《探さないでください。》
何度読んでも、がに入ってこなかった。
広告
私はコートも脱がず、便箋をにしたままち尽くした。
結が浮気をしていた?
杏奈を置いて?
朝まで普通に話していたのに?
そのの朝、結は弁当箱の蓋を閉めながら言った。
「今は誠さんの好きなハンバーグにするね」
私は笑って、
「子ども扱いするなよ」
と返した。
結も笑った。
「じゃあ向けにチーズなしにする?」
そんなくだらない会話をした。
その数に、別の男ときるため族を捨てるの顔には見えなかった。
寝では、5歳の杏奈が眠っていた。
しばらくすると目を覚まし、私の顔を見るなり尋ねた。
「ママは?」
私は答えられなかった。
「ママ、どこ?」
杏奈はベッドからり、リビングや呂まで探した。
「ママ!」
その声がへ響いた。
私はそのにしゃがみ込み、娘を抱きしめることしかできなかった。
翌朝、警察へ相談した。
しかし成女性で、自発なを示すようなき置きがある。事故や事件を直接示す証拠もなく、すぐに本格な捜査へ移る状況ではないと言われた。
もちろん私は諦めなかった。
結の友。
以の職。
病院。
ホテル。
い当たる所へ片っ端から連絡した。
駅の防犯カメラについても相談し、弁護士を通して確認できる範囲を探した。
それでも痕跡は見つからなかった。
もっとも自然だったのは、結の持ち物だった。
の夜にをたのに、のコートが残っていた。
旅鞄も。
化粧品も。
預通帳も。