"追い出された四畳半" 第20話
莉緒がヒステリックに叫び、トレンチコートの裾を握りしめた。
「公団宅の無断転貸、および差額の私流用は、都営宅供規約第条に確に違反する犯罪為です」 矢代は彼女の言葉を、い声で刀両断にした。 「差額の額万千百円、ヶ分。計百万千円は、民法第百条の当利得返還義務に基づき、全額、宇佐美茜さんへの即返還の対象となります。……なお、返還に応じないは、公社が宇佐美さんの債権回収を支援し、あなたの与および預貯座、親族の資産に対する仮差し押さえの続きに入ります」
百万千円。
数字のみが、莉緒の喉元を締めげたようだった。 彼女は息を吸い込むことすら忘れ、を半きにしたまま直していた。
彼女が着ているそのベージュのトレンチコートも。 毎週のように通っていた表参の美容院も。 SNSで「丁寧な暮らし」と称してアップしていた級なオーガニックコスメも。 すべて、私が物流倉庫のたいコンクリートので、の裏の肉刺を潰しながら稼ぎした万千円の搾取のに成りっていたのだ。
「そんな……払えるわけないじゃない……!」 莉緒の目から、ボロボロと粒の涙が零れ落ちた。 今度は演技ではない、本当の恐怖と絶望の涙だった。 「私、貯なんて円もないのよ! 仕事だって、派遣の事務を先切られたばっかりで……拓真くんが全部面倒見てくれるって言ったから……!」
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に組み伏せられていた須藤が、血の混じった唾を吐き捨てながら、狂ったように笑いした。
「誰が面倒見るって言ったんだよ、この馬鹿アマが!」 須藤の顔が、りでどす黒く変していた。 「テメエが『タダ同然でに入る公団がある』って泣きついてきたから、恵つけてやったんだろうが! 百万の借背負ってんのを隠して、俺ので毎晩い飯いやがって! 警察に捕まるならテメエも連れだ!」
「あんたが脅したんじゃない! 名義変更すれば全部チャラにしてやるって言ったくせに!」 莉緒が叫び返し、に散らばった借用の枚を掴んで須藤の顔に投げつけた。 「この詐欺師! ねばいいのに!」
「テメエこそ、裏で健とかいう阪のブローカーと連絡取ってただろうが!」 須藤が号を響かせた。 「俺を警察に売って、付持ってトンズラこくつもりだったの、全部筒抜けなんだよ! スマホの履歴見りゃ発で分かるんだよ!」
共犯者たちの、あまりにも見苦しく、救いようのない罵りい。 ほんの分まで、私という「無力な者」を嘲笑い、その尊厳を踏みにじることで結束していたが、自分たちの元にがついた瞬、互いの喉笛をいちぎりっている。
の警察官が須藤の体を引き起こし、背に錠をかけた。
チャリ、というたい属音が、朝の静まり返った部にさく響いた。
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その音を聞いた瞬、莉緒がハッとに返ったように息を呑んだ。 彼女は膝ちのまま、畳のをうようにして私の元へと擦り寄ってきた。 派なネイルの施された指先が、私の作業ズボンの裾を掴もうとする。
「茜……! ねえ、茜、お願い!」 莉緒の顔は、涙と剥がれ落ちたマスカラで見るもなく汚れていた。 その瞳には、かつての教で私を見していたときの傲さは欠片もなく、ただ惨めに命乞いをする野良犬のような怯えだけがあった。
「私たち、友達じゃない! のときから、ずっと緒だったじゃない! 私が悪かった、調子に乗ってたの! おは……おは絶対に返すから! 毎、万円ずつでもいいから返すから、警察と公社のに『誤解だった』って言ってよ! 茜の言で、全部収まるのよ!」
友達。 この女は、どのでその言葉を吐いているのだろうか。
私は静かに、歩ろへがった。 莉緒のが空を切り、畳のに虚しく落ちる。
私は作業着の内ポケットにを入れた。 そして、今朝、ゴミ袋ののから拾いげた、母の写真をそっと取りした。
割れたガラスの破片によって無残に引き裂かれ、が染み込んでが褪せた、母と私の唯の写真。 私はそれを、莉緒の目のに差しした。
「これ、あなたが今朝、ゴミ箱に捨てたものよ」