みかん小説
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"追い出された四畳半" 第17話

「押さねえなら、どうなるか分かってんだろうな? お区の寺に預けてある母ちゃんの骨、どうなってもいいのか?」

莉緒が横で、腕を組んで笑を浮かべていた。 「茜、あんたのためをって言ってあげてんのよ? あんたみたいな寄りのない女がさ、きていけるわけないじゃない。この類にハンコ押して、しくていけば、拓真くんが切れとして万やるって言ってんの。親の骨を無縁仏のゴミ溜めに捨てられたくなかったら、素直に従いなさいよ」

は、完全に勝利を確信していた。 者の喉元にナイフを突きつけ、もっとも切なものを質に取れば、どんな理尽な求でも通る。 そうやって、今までも何ものい物にしてきたのだろう。

私はゆっくりと線を落とし、類を見つめた。

「……分かりました」 私の声は、ひどく静かだった。 「押します」

莉緒が、堵と嘲笑が混ざりった息を漏らした。 「最初からそうすればいいのよ。ほら、拓真くん、ペン」

須藤が満そうに頷き、物の油性ボールペンを私のに放りした。 私はペンをに取り、署名欄に自分の名らせた。

宇佐美 茜。

画を、丁寧に、震えることなくき終える。

「よし、次は印鑑だ」 須藤が、ポケットからつのさな印鑑ケースを取りした。 それは、彼らが私の部から盗みした、私の『古い実印』だった。

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須藤はそれをテーブルのにコトンと置き、朱肉の蓋をけた。 「ほら、押せ。しっかりるようにな」

私は古い実印をに取った。 母が買ってくれた、象調の、し角の丸くなった印鑑。 朱肉の赤い油を、印面に満遍なく擦り付ける。

ジュッ、と微かな音がして、鮮やかな朱が印面に宿る。

私は類の押印欄のに印鑑を構えた。 須藤の線が、い入るようにその元に注がれている。 莉緒もまた、勝利の瞬を見届けようと、を乗りして息を呑んでいた。

トン。

私は、に、均等に体をかけて印鑑を押し当てた。 ゆっくりとす。

に、鮮やかな『宇佐美』の文字が、くっきりと浮かびがった。

、区役所で完全に廃止され、法な効力をミリも持たない、ただのプラスチックの棒と化した印鑑の跡。

「よし……!」 須藤が類をひったくるように奪い取った。 その印を、まるで宝でも鑑定するかのように凝する。 「完璧だ。これで終わりだ」

莉緒もまた、顔を潮させて拍を打った。 「あはは! お疲れ様、茜! これでれて自由のね! ほら、約束の万円……は、やっぱりナシね! あんたが今まで私の部にタダ同然で転がり込んでた迷惑料として相殺しといてあげる!」

莉緒はそう吐き捨てると、トレンチコートのポケットから、千円札を枚取りした。

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昨夜、須藤が投げ捨てた千円札枚を、両替でもしたのだろうか。 彼女はその幣を、私の膝のに向けてヒラヒラと放り投げた。

「これ、バス代。ってるから、駅まで濡れずにけるでしょ? 私ってホント優しいよね。謝しなさいよ」

千円札が、私のえ切った指先の横に落ちた。

計の針は、午分を指していた。

須藤は類を切そうに胸ポケットへしまい込み、がった。 「莉緒、俺は先にを回してくる。……おい、宇佐美。おは俺たちが戻ってくるまでに、その汚い荷物持って消えろよ。もし過ぎても残ってたら、今度こそ荒川に沈めるからな」

須藤が、勝ち誇った取りで玄関へと向かった。 莉緒もまた、自分のきなキャリーケースの持ちを引きげ、嫌でい始めた。

は、完全に自分たちの世界に浸っていた。 無者を騙し、脅し、処を奪い、すべての罪を押し付けて、しいへと踏みす。 その完璧なシナリオの結末に、酔い痴れていたのだ。

私はがった。 膝の千円札には、指本触れなかった。

「……茜? 何突っってんの? く荷物まとめなさいよ」 莉緒が苛たしげに振り返る。

私は答えず、ゆっくりと玄関へと歩きした。 須藤が、濡れた革靴にを滑り込ませ、ドアノブにをかけたところだった。

「須藤さん」 私の静かな声が、廊に響いた。

須藤が怪訝そうに眉をひそめ、振り返る。

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