みかん小説
本棚

"追い出された四畳半" 第13話

赤黒い文字で殴りきされた『本ニ連絡ナキ、親族・勤務先ヘノ斉回収ニ移スル』という文言。 それは、莉緒がこれまで必に着飾ってきた「華やかなインフルエンサー」という皮の向こう側に広がる、本物の底なし沼の臭気そのものだった。

のドアが、バタンと激しい音をてて閉まった。 内側から鍵の掛かる、カチャリという乾いた属音。 莉緒は部に閉じこもり、度とてこなかった。

私は畳半の自に戻り、襖を静かに引き乱した。 部は、昼過ぎだというのに暗い。 向きの窓ガラスを、激しいが絶えなく打ち叩いている。 窓枠のアルミサッシの隙から、たい隙がピューピューと細い笛のような音をてて忍び込み、素の指先を容赦なく凍えさせていく。

私は畳のに正座し、胸元に抱きかかえていた母の桐箱を、膝のにそっと置いた。 を拭いった肌は、湿気を吸って黒ずんでいる。 割れた写真てのガラスの破片を、指先を切らないように枚ずつ慎に取り除き、に包んだ。

写真のの母は、痩せこけた頬に微かな笑みを浮かべたまま、私を見つめている。

「……お母さん」

声にすと、喉の奥が引き攣れるように痛んだ。 泣き言を漏らすつもりはなかった。 だが、このえ切ったらずの空で、母と、内職の造を夜遅くまで組みてていた々のの温もりが、記憶の底から蘇ってきて胸を締め付ける。

広告

母が倒れ、この部で息を引き取る直、私のく握りしめて遺した言葉。 『茜、この部だけは放しちゃ駄目だよ。ここはね、あんたがどれだけ社会で傷ついても、誰にも邪魔されずに眠れる、あんただけの傘なんだから』

その傘を、で踏みにじり、骨組みをへし折って奪い取ろうとした連がいる。 私の代、代のすべてのを、ただ「き延びるため」だけに費やさせておきながら、最にはへ放りして笑おうとしていた連が。

私は写真ての裏蓋から、母の写真を慎に抜き取った。 湿気で台に張り付いていたが、ピリピリとさな鳴をげて剥がれる。 私はそれを、作業着の内ポケット、体温が直接伝わる胸元の位置へと滑り込ませた。

計の針は、午を回っていた。

壁の向こう、通気の奥に仕掛けたICレコーダーの受信代わりのスマートフォンに、線イヤホンを差し込む。 の奥に、シャーという特のホワイトノイズが流れ込んできた。 老朽化した公団の、膏ボード越しに拾われる音。

最初は、爪を噛むギリギリという神経質な音だけだった。 続いて、ベッドのスプリングが軋む音。 そして、莉緒が震えるでスマートフォンの画面を連打するタップ音が、々しく鼓膜を揺らした。

発信音。ツルルル、ツルルルという無質な呼びし音が回。

広告

カチャリと繋がり、莉緒のひきつった、媚びるような声が響いた。

「……あ、もしもし? 坂本さん? 莉緒です……うん、あのね、今の夕方の件なんだけど……」

の声は聞き取れない。 だが、莉緒の呼吸が次第に荒くなっていくのが分かった。

「待って、待ってください! 拓真くんは……拓真くんは今、ちょっと警察に話を聞かれてるだけで! 逮捕とかじゃないんです! 類の備だって言ってたもん! ……え? 関係ない? そんな……今万用しないと困るって、昨言ってたじゃないですか!」

莉緒の爪が、壁を引っ掻く音がした。

「公団の名義は、の朝には確実にに入ります! あの同居の女、の悪い派遣だから、もう完全にビビってて……私がかせた放棄届に実印も押させました! だから、その居権を担保にして、繋ぎ融資を……え? ……もしもし? 坂本さん!? 嘘でしょ……!?」

ツーツーという無質な切断音。 続いて、何かがに叩きつけられる鈍い音がした。 莉緒のスマートフォンのケースがれ、フローリングを滑っていく音だった。

「クソッ……! どいつもこいつも……!」 莉緒の濁った罵声が漏れる。 その声は、普段ネットに投稿している猫撫で声とは似ても似つかない、どす黒い獣の唸り声だった。

彼女は完全に追い詰められていた。 須藤という男を「資系の持ち」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: