"離婚した直後、奪われていた80億円が戻った――元夫の結婚式で私が取り返したもの" 第1話
午1010分、私は京庭裁判所の正をた。6末の差しは容赦なくアスファルトを照らし、の向こうに並ぶビルの輪郭まで気でわずかに揺れていた。には、つい数分に受け取ったばかりの婚成を確認する類があり、の端にはまだしい印が鮮に残っている。それなのに、議なくらい胸は静かだった。
5続いた結婚が終わったというのに、しみも未練も湧いてこなかった。むしろ首に巻きついていた見えない縄をようやくされたようで、く息を吸うたびに肺の奥まで空気が入ってくる気がした。3の私なら、同じをにしただけでっていられなかっただろう。けれど今は、終わったのではなく、やっと始められるのだとっていた。
隣を歩いていた元夫の佐藤健吾は、真っなシャツの袖をえながら腕計を確認した。泰成建設の専務から若くして代表取締役に就いた男らしく、婚成のでさえ、彼の表には仕事の契約を件片づけた程度の軽さしかない。私と目をわせることもなくスマートフォンを操作し、やがていしたようにをいた。
「これで正式に終わった。本の部は会社名義だから、今に暗証番号を変える。君の私物は業者にまとめさせて、実か好きな所へ送らせるよ」
広告
慰謝料として3,000万円を支払う、と健吾は続けた。まるで働いた使用に退職を渡すような調だったが、私は言い返さず、婚類をつ折りにして鞄へ入れた。その無反応が気に障ったのか、彼はを止めて私の横顔を覗き込み、い笑みを浮かべた。
「がらなくていい。俺がいなくなったら、君は古い設計図を抱えた建築士に戻るだけだ。泰成の板がなければ、世は君なんか見向きもしない」
胸の奥で、かつてなら疼いただろう所を探してみた。しかし、そこにはもう何も残っていなかった。私が徹夜で図面を修正していた夜、健吾は「夫婦なんだから会社に貢献するのは当然だ」と言い、私の名が設計者欄から消されても気に留めなかった。彼が私を必としていたのは妻としてではなく、父から受け継いだ技術と、自分の会社に都よく働く専としてだったのだ。
「それと今の夕方、ホテル帝都で俺と優奈の披宴がある。違っても来るなよ。婚した元妻に騒がれたなんて記事になったら迷惑だから」
優奈という名を聞いても、驚きはなかった。3まで私を「栞さんみたいな女性になりたい」と慕い、に来れば私の淹れた茶をみながら仕事の相談をしていた女だ。その、健吾の張に同する回数が増え、夜に削除された写真やホテルの細、らないの匂いとして私たちの結婚活に入り込んできた。
広告
「して。あなたの結婚式を壊すためだけにを使うほど、私は暇じゃないから」
私がそう言うと、健吾は勝ち誇ったようにで笑った。脇には黒いセダンがまり、部座席の窓が静かにがる。そこには元姑の佐藤美智子が座っていて、赤いを引いた唇を固く結び、捨てる直の古い具でも見るような目で私を眺めていた。
「これからは私をお義母さんなんて呼ばないでちょうだい。5もいたのに子供産めなかったを、いつまでも佐藤の嫁だったなんてわれたくないの」
以なら、その言葉だけで眠れない夜が続いた。をしていても客が来れば台所へち、美智子が腰を痛めれば病院へ付き添い、好きな煮物を覚えればいつか族として認めてもらえるとっていた。だがは、相がりないから搾取するとは限らない。もうこれ以奪えるものがないと気づいた瞬、初めて邪魔者として捨てるもいる。
がりると、私は脇でタクシーを拾った。部座席に腰をろした瞬、鞄のでスマートフォンが震え、からの通が画面いっぱいに表示された。そこに並んでいた数字を度では理解できず、私は無識に桁を数え直した。
8,000,000,000円。
入刻は午1020分。婚成から、ちょうど10分だった。