"十年介護と九千万円" 第17話
座卓のには、茶い角形2号の封筒がつ、寸分の狂いもなく平に並べられている。
つは、昨法務局に受理させた『所権移転禁止・保全異議申』の控え。 つは、神保から渡された森田宏の指紋照資料と、迫の裏座記録。 そしてもうつは、千から預かったボイスレコーダーと、麦茶の毒物鑑定、千万円の命保険証券のコピーだった。
午分。
階段をがる、く揃いな音が階の踊りに響いた。 革靴の底がコンクリートを擦る音。 ピンヒールが障りにねる音。
ガチャリ、と無慮に鍵が回り、鉄のドアが蹴破るような勢いでけ放たれた。
「おい、枝。用はできてるんだろうな」
入ってきたのは迫だった。 そのろから、毛皮のコートを揺らし、ガムを噛みながら麻美が部へ滑り込んでくる。
「うわ、やっぱり臭い。く済ませてよ、半から座でネイルの予約入れてるんだから」
麻美は同然にがると、座卓のに置かれた座布団を先で払い除け、窓際の柱に寄りかかって腕を組んだ。
そして——最に入ってきた物を見た、私の背筋をたいが通り抜けた。
健の寝巻きを着ていた男ではない。 仕ての良いチャコールグレーのウールジャケットに、黒のタートルネック。 、ベッドのでよだれを垂らし、半を引き攣らせていたはずの男が、両でしっかりとを踏みしめ、悠然と部に入ってきた。
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男は度もを引きずることなく、座卓の真正面、座の位置にどっかりと腰をろした。
ポケットからのジッポライターを取りし、親指で弾く。 カチリ。 ちるを煙の先に吸い付け、男は煙を私の顔へ向けて吐きした。
「、ご苦労だったな、妹よ」
く、濁った、澱みのない男の声。 その元には、々しい寝たきりの患者のなど微もなかった。 酷で、底のれない凶悪犯のが、のに晒されていた。
迫が私のに、枚の類と朱肉を叩きつけた。 茨の実の売却に関する最終委任状だった。
「枝さん。叔父とやらとの話はついたんだろうね。ここに実印を押しなさい。これで君も、この男の介護から解放される。お互いにとって番いい結末だ」
迫の顔には、勝ち誇った笑みが張り付いていた。 自分たちが仕掛けた完璧な包囲網ので、無力な女が完全に屈したと信じ切っている。
麻美が退屈そうに爪を眺めながら、嘲笑を投げかける。 「謝しなさいよ、おばさん。切れ代わりに、健ちゃんが万恵んであげるって言ってるんだから。その汚い荷物まとめて、今に茨のボロにでも引っ越しなさい」
の線が、値踏みするように私に突き刺さる。 部の空気が、ドロドロとした欲望と侮蔑で淀んでいた。
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私はかなかった。 線を伏せることも、泣き真似をすることもしなかった。 ただ静かに、正面に座る男の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「どうした? が震えてハンコが押せねえのか?」 男が煙をもみ消しながら、で笑った。
「印鑑なら、押しませんよ」
私のから落ちた声は、自分でも驚くほど静かで、平坦だった。
迫の眉がピクリとねがった。 「……何だと?」
「茨のは、売れません。今朝番で、方法務局に『所権移転禁止の保全異議』を正式に申してました。登記簿には厳審査のフラグがっています。偽造された実印では、円の融資もりません」
迫の顔から、瞬で血の気が引いた。 「な……お、何を勝な真似を……!」
「それだけではありません」 私は座卓の央に、番の茶封筒から引きした類を滑らせた。
蛍灯ののに晒されたのは、あの資系保険会社の証券コピーだった。
「被保険者、枝。受取、健。保険、千万円。急性全の特約付き」
部のの空気が、音をてて凍りついた。
迫の目が泳ぎ、額にじわりと脂汗が滲みした。 「そ、それは……健が、万がのおの将来を配して……」
「その健さんが、毎晩私のピッチャーに毒を混ぜていたんですね」
私は枚目の類を叩きつけた。 公関の印が押された、麦茶の成分分析報告。