みかん小説
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"十年介護と九千万円" 第4話

それまでに印鑑証を取っておくんだ。いいね」

音をてて、迫はっていった。 ドアが閉まった瞬、私は壁に背をもたれかけ、く息を吐きした。 膝が刻みに震えていた。 だが、退くわけにはいかない。

私はエプロンを脱ぎ捨て、い茶封筒に保険証と分証を入れると、公団の部した。

向かったのは、自転分ほどの距にある区役所の福祉課だった。 フロアには、番号札をにした老活困窮者が沈んだ顔で並んでいる。 蛍灯のチカチカとしたと、古びたファイルの埃っぽい匂い。

半待たされ、ようやく私の番号が呼ばれた。 アクリル板の向こうに座る若い男性職員は、疲弊し切った顔で私を見た。

さんの、障害と殉職……いえ、傷病当の振込細の示ですね」

「はい。妹の枝です。本の代理として、過分の受履歴と、現の振込先座を確認したいのですが」

職員は端末を叩き、画面を見つめた。 数秒、彼の表が微妙に曇り、線が私の顔へと戻った。

さん……申し訳ありませんが、こちらのデータ、窓での示はできません」

「どうしてですか? 私は同居している実の妹です。戸籍謄本もここにあります」

「ええ、ご親族であることは確認できますが……この受権に関する管理および代理権ですが、始当初から『成見類似事務受託者』として、元警察関係者の方——迫様が指定されています。

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関の座変更や示請求に関しても、その迫様の署名捺印がなければ、親族であっても受付できない規定になっております」

「そんな馬鹿な! 私が毎、兄のオムツを替えて、ご飯をべさせているんですよ!? 兄のために国からているおが、どこに消えているのか妹の私がる権利もないんですか!?」

わず声がずった。 周囲の相談者たちが、好奇の目を向けてくる。 職員は困惑したように目を伏せ、定型句を繰り返すだけだった。

「制度の問題でして……当の申請類に、さんご本の実印と、枝さんの代理同が提されておりますので……」

、兄が倒れて気が転していた私に、迫が「全部続きはやっておくから、ここに名いてハンコを押せ」と突きつけてきた、あの束のことだ。 あのから、私は歩もられないよう、法の続きという綿密な糸で絡め取られていたのだ。

役所をると、く垂れ込めていた。 たいが、湿ったカーディガンを通り抜けて肌を刺す。

帰り、公団の駐輪に自転を止めていると、階にむ民委員の田に見つかった。 派なパーマを揺らしながら、彼女はわざわざ駆け寄ってきた。

「あら、枝さん! お兄さんの買いし? 本当にねえ。

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もうでしょう? 迫さんも自治会の集まりでいつも褒めてらっしゃるわよ。『さんの妹さんは、本の誇りだ』って。国のお父さんもお母さんも、きっとんでるわよ」

のない、純粋な賛美。 それが、何よりも鋭利な刃物となって私の喉元を切り裂く。 この団全体が、迫の作りげた「美談」という名の監カメラで覆い尽くされているのだ。 私がしでも声をげれば、「兄を見捨てる非な妹」「介護疲れでがおかしくなった女」として、狂扱いされるのは目に見えていた。

「……ありがとうございます、田さん。し、急ぎますので」

私は笑いを貼り付け、逃げるように階段を駆けがった。

に戻ると、男はベッドので静かに目を閉じていた。 私の音を聞きつけると、わざとらしく々しく目をけ、喉の奥を鳴らして涎を流す。 その汚い演技を見つめながら、私はえ切った緑茶を男の元に運んだ。

「お兄ちゃん、お茶よ」

男は舌を震わせ、数滴をこぼしながらみ干した。 その喉仏のきを、私はじっと見つめていた。 唾液をみ込む力、首の筋肉の張り。 どれつ取っても、神経麻痺を起こしているの肉体ではない。

私のを奪った男。 私のを貪りい、迫たちと酒を酌み交わし、贅沢を貪る男。

(お体、何者なんだ)

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