"義母に通帳を渡さなかった妻" 第1話
「飯は?」
午9をし回ったころ、玄関のドアをけた夫の林蒼太は、靴を脱ぐより先にそう言った。営業先を回ってきたらしく、ネクタイは緩み、には黒いビジネスバッグががっている。疲れているのは分かったが、その調には「に帰れば妻が夕飯を用している」という疑いのない提が染みついていた。
私はリビングのソファに座り、翌の会議資料をタブレットで確認していた。ローテーブルにはコンビニで買ったサラダとペットボトルの炭酸が置かれているだけで、ダイニングにも鍋や皿は並んでいない。蒼太はようやくその異変に気づいたらしく、空っぽのテーブルと私の顔を交互に見た。
「……夕飯、作ってないの?」
「作ってないわよ」
「なんで?」
私はタブレットを閉じ、寝の方へ線を向けた。半きになったドアの向こうに、黒と紺のキャリーケースが2つ並んでいる。その横には蒼太のスーツ、シャツ、着、充器、洗面用品まで、数活するには困らない程度の荷物をまとめてあった。
「あなたの荷物、まとめておいたから」
蒼太はしばらくが分からないような顔をしていた。やがてキャリーケースと私を見比べ、眉にい皺を寄せた。「何だよ、それ」と声をくしたが、私はちがってキッチンへき、自分のグラスにを注いだ。
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「これからは、お義母さんので暮らして」
「……は?」
「そんなにお義母さんの考えが正しいとうなら、緒に暮らせばいいじゃない。計の管理も夕飯も洗濯も、全部お義母さんにやってもらえばいいわ」
蒼太の顔にりが浮かんだ。彼はビジネスバッグをに置き、「お、おかしくなったのか」と吐き捨てるように言った。だが私は、その言葉を聞いても議なくらい腹がたなかった。
むしろ、やっとここまで来たのだとった。
結婚して3。私は何度も彼に譲り、何度も「族だから」という言葉にみ込まれてきた。けれど、その3、義母の恵子がきなボストンバッグを抱えてこのにやって来た瞬から、私ので何かが急速にめ始めていた。
「ひよりさん、若いはおを持つとすぐ無駄遣いするでしょう?」
恵子は、初の夕を終えた、私の財布を見ながら笑った。穏やかな声音だったが、その目は私の持ち物を値踏みするようにいていた。リビングの棚、キッチンの、私が仕事用に使っているバッグ、クローゼットののコートまで、次々と値段を尋ねてきた。
「このバッグ、かったでしょう?」
「仕事で使うので、丈夫なものを選びました」
「でも女がそんなものに何万円も使う必あるのかしら。将来、子どもができたらおなんていくらあってもりないのよ」
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私は笑って聞き流した。恵子は数泊まりに来ただけだとっていたし、蒼太にも久しぶりに母親と過ごすが必なのだろうと考えていたからだ。
ところが、その夜、恵子は突然こう言った。
「これからは私が、あなたたちの計を管理してあげるわ」
冗談だとった。
だが恵子は本気だった。
蒼太のは、取りにすれば25万円。対して私は、資系のブランド戦略部で部を務め、によって変はあるものの収入は100万円を超えていた。結婚に購入したこのマンションも、から諸費用まで私が自分の貯で用したものだった。
それなのに恵子は、まるで息子夫婦の計が破綻寸であるかのように言った。
「蒼太は昔から料を私に預けていたのよ。あなたも同じようにすればいいじゃない。与座のキャッシュカードと暗証番号を渡しなさい。必な分だけ毎お遣いとして渡してあげるから」
私は最初、聞き違いかとった。しかし隣にいた蒼太は止めるどころか、黙って噌汁をすすっているだけだった。私が彼を見ると、ようやく線をげ、「母さんはの管理が得だから」とさく言った。
そのからだった。
このは、私を妻ではなく、母親と緒に管理できる誰かだとっているのかもしれない。
そうじ始めたのは。
そして今、目のにいる蒼太は、何もない卓を見ながらっている。
「母さんは俺たちのためをって言ってるだけだろ。