"名前を消された入園届" 第17話
待にいたの患者たちが、何事かと怯えた目で兄妹を見つめていた。 護師たちが慌てて奥の診察からびしてくる。
どうやってここを突き止めたのか。 考が麻痺したで、必に記憶を繰り寄せる。 ……表にめた、父の軽トラだ。 錆の浮いた、特徴なダイハツの古いハイゼット。 康平は、父のアパートの周辺をで見張っていたのだ。私たちが部をて診療所に向かうのを、をつけていたのだ。
「! どこだ!」
康平が、のまま処置のカーテンにをかけようとした。 そのだった。
ドスン、と鈍い音が響いた。
父だった。 父は、陽菜を受付の女性事務員の腕のに預けると、股で康平のにち塞がり、その胸倉を片で鷲掴みにしていた。
「……ここをどこだとっとる」
父のをうような音が、騒然としていた待の空気を瞬で凍りつかせた。
「お、親父……邪魔すんなよ! これは俺たち夫婦の問題だ!」
康平が父のを振り払おうとしたが、ビクともしなかった。 、鉄骨と枕を担ぎ続けてきた元鉄員の握力は、デスクワークで弛んだ営業マンの腕力とは根本に違っていた。 父の指先が、康平の物のスーツの襟を引きちぎらんばかりに締めげる。
「子供ので喚くな、汚らわしい」
「痛っ……せよ! 警察呼ぶぞ!」
「呼べ」
奥の診察から、髪の当直医師が鋭い声で割って入った。
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「事務さん、迷わず〇番通報しなさい! 院内暴力および診療妨害です! 警備員さん、このを敷へ!」
奥の控から、屈な警備員が、警棒を構えてびしてきた。 事態が自分たちのい通りにならないと悟った志織が、ヒステリックに叫びながら康平の腕を引いた。
「もういい! お兄ちゃん、こ! こんなのおかしい族、相にするだけ無駄よ!」
「!!」
警備員に腕を取られ、自ドアのへと押しされながら、康平は処置のカーテンに向かって狂ったように叫び続けた。
「の朝だ!! の朝、団の部に来い! 来なきゃ、おが陽菜を虐待して連れったって警察に届けてやるからな!! 絶対に許さねえぞ!!」
バタン、とドアが閉まり、激しいの音のにの罵声が吸い込まれていった。
待には、苦しい静寂が残された。 父は乱れた息をえ、事務員から陽菜を受け取ると、処置の私のベッドの脇に静かに歩み寄ってきた。
「……すまんな。騒がせた」
父のが、点滴の管が刺さった私のを、そっと包み込んだ。 を帯びた私の皮膚に、父のたい、ザラザラとした指先の触が伝わってくる。
「丈夫だ。点滴が終わるまで、目を閉じとけ」
私は、溢れそうになる涙を必にこらえながら、さく頷いた。 抗剤と解剤が効いてきたのか、激しい痛みがしずつのき、鉛のような眠気が界を覆い始めていた。
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の朝。 認保育園の利用調に伴う、現況確認調査。 彼らが逃げを失い、最に仕掛けてくるであろう、破滅な罠の刻限が迫っていた。
――翌朝。 曜、午分。
はがっていた。 だが、空は苦しい鉛のに覆われ、湿ったアスファルトからはの気がちっていた。
点滴のおかげでは度台までがり、胸の張りも幾分か治まっていた。 だが、全の関節にはまだい倦怠が残り、歩くたびに腹部と胸の奥が微かに痛んだ。
父のアパートの畳で、私は最の準備をえていた。 着古した黒のタートルネックに、のウールコート。 胸元には、抱っこ紐でしっかりと陽菜を固定した。 陽菜は、昨夜の騒の疲れが残っているのか、私の胸に顔を埋めたまま、静かに私の指を握っていた。
肩には、あの使い古した、皮のトートバッグを掛けていた。 この数、私のすべての活と、陽菜の未来を詰め込んで、たいのを彷徨ってきたバッグだ。
「、持ったな」
父が、玄関のたたきで全靴の紐を結びながら言った。
「……うん」
私はバッグのをぎゅっと押さえた。 バッグの底には、黒い印鑑ケースに入った私の実印。 そして、茶の角形号の封筒に入った、陽菜の母子帳の検診記録原本、ならびに保育園の利用内定通。
これさえあれば、役所の調査員に、私たちの正当な権利を証できる。